夏休みが来た 10

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「礼ちゃん、先に入って3人分の席を用意してもらって」  将之に言われ、素直に礼が「はーい」と返事をして店の中に入る。  時刻は11時32分。  開店したばかりのレストランの駐車場には将之の車しか停まっていなかった。  早めの食事の決断が功を奏したようで、待たずに入れそうだ。 「何をむくれているんです?」  車から降りた知己に将之が話しかけた。 「俺はもうお前と関わるの嫌だ」  将之を置いて、知己はさっさと店の方へ歩きだした。 「はあ」 「すぐに、何でもかんでも俺のせいにして」 「だって、仕方ないでしょ?」  将之が困ったように微笑むが、そんなことでは誤魔化されない。 「大体いつもお前がやらかしといて、なんで俺が(ばち)被るんだよ!」 「成り行きで」  加齢臭疑惑に、もいきー扱い。  何かにつけて、被害を被るのは知己ばかりだ。 「ウィンクなんか、すんな! また礼ちゃんに蔑まれるだろう」  次も、一体何と言われるか分かったものではない。 「それですが、本当に伝わってなかったんですね」  溜息を吐く将之に 「なんだよ!」  知己は噛みつかんばかりに言い返した。 「このお店。何度か父と来たレストランなんですよ」 「え?!」  ウィンクは将之のサインだったとやっと理解した知己は、レストランの入り口を仰ぎ見た。 (やっぱり……! 礼ちゃん……)  焦りにも似た思いに駆られる。 「すぐに席の準備できるってー」  知己が見上げていた重たいドアがゆっくりと開き、礼が二人を中に手招きする。 「先輩。地雷そのものなので、店の中ではやめておいた方が……」 「あ、うん。そうだな……」  将之の忠告は、ある意味、知己を救った。  食事の間に、どう訊くべきか考える時間ができた。
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