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夏休みが来た 11
食事を終えて、外に出る。
美味しいはずの料理も
(ヴィシなんとかいう枝豆の冷たいスープとか、野菜と魚の切り身の酢漬けみたいなのだとか、須々木だか梅木だかのポワレというのを食べた気はする)
断片的な記憶しか残らないほどに知己は考えたが、土台、無理な話だ。
自分の会話スキルで、あの礼から本音を引き出せるとはとても思えない。
将之の車に乗り込み、礼が
「美味しかったわねー。特に枝豆のヴィシソワーズとマリネとスズキのポワレ!」
と助手席で答え合わせのように語り出した時には、思わず
(ソレ!)
と知己は後部座席で目を輝かせた。
(いやいや。そうじゃなく、どこでどう切り出すか……)
喜んだのも一瞬、またしても後部座席に沈みこむように考える。
「じゃあ、おなかいっぱいになったことだし、蟹さんとリュウグウノツカイを探しにもう一回海浜公園に行きましょ。で、帰りは、どこかに寄って美味しい海鮮を買いましょうよ」
さっき来た道を戻るように海浜公園を目指す将之に、礼が言った。
「あはは。昼ごはん食べたばっかなのに、もう夕飯の心配? ってか、まだリュウグウノツカイを諦めてなかったんだ」
将之は笑いながら答えた。
多分、礼は蟹の話をして海鮮が食べたくなったと思われた。
(俺以上に蟹さんに対して酷い発言をしているな、礼ちゃん。
……いやいや、そうじゃなく)
もはや、考えるのに疲れ切った知己は、
(ええい、出たとこ勝負だ!)
と思い切って口を開いた。
「礼ちゃん、あのさ……」
「何?」
「あー! 二人とも! もう公園に着きましたよー!」
将之が海浜公園の駐車場に車を停めて、大げさに叫んだ。
今度は忘れずに日傘を持って、いそいそと礼が車から降りると
「お前……。邪魔しない約束は?」
知己が降り際に睨む。
「す、すみません。つい。怖くって……」
ハンドルにしがみつくように将之が顔を伏せて言うのだった。
「お前は車に残っていろ」
「え? まさかの『ステイ』ですか?!」
「その方が気が楽だろ?」
「それはそうですが……、それはそれで堪えます」
「じゃあ、好きにしろ」
知己が乱暴にドアを閉めると、礼が二人を待っていた。
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