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「もー。また二人でコソコソと秘密の相談して……って」
礼が日傘を肩にかけ、くるんと後ろを振り返るが、そこに将之が居ない。
「あれ? 将之お兄さんは、なんで車の中なの?」
「諸事情により、将之はしばらく動けない」
「自分の運転で酔ったの?」
「そう思ってもらっていい」
礼の振り返ったはずみで、胸元から細い金鎖のネックレスが飛び出した。
昨日通した四つ葉の飾りが午後の光に照らされて光っている。
(幸せ……)
「なぁ、礼ちゃん」
「なあに?」
「礼ちゃんは幸せか?」
「ん? 幸せよ。でも、もっと幸せになりたいわ」
鎖に指を引っかけて微笑む礼の顔を曇らせるのかもしれないと思うと胸が痛い。だけど、知らない振りをするのはもっと辛い。
(本当の兄貴の方は怖がって、知らない振りを勧めるけどな)
「あのさ、気のせいかもしれないんだけど……お父さんのこと、考えているのかなって思って」
「え? なんで? 私が? どうしてそう思うの?」
予想通り『お父さん』の言葉一つで、礼の顔に般若のごとく眉間に深い皺をいくつも刻んだ。
「……家で、お父さんの座っていた所を見てたから」
「そんなことしてないわ」
自嘲のような、どこか曖昧な微笑みを浮かべて礼が否定する。
「してたよ。礼ちゃんは意識してないかもだけど、ふとした瞬間。料理の合間とかに、ちょっとだけソファの一角を眺めるんだ」
「まさか。……たまたまじゃない? それこそ、気のせいでしょ」
礼は心外だと言わんばかりに、だが確実にいつもの軽やかな物言いから咎めるかのような口調になっていった。
「気のせい……」
少し口ごもって、知己は
「最初は、俺も気のせいだと思った。でもそれが何回も重なると、気のせいじゃないって思うんだ」
「……何が言いたいの?」
確実に礼のご機嫌メーターは不機嫌のレッドゾーンに指しかかっていた。
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