夏休みが来た 11

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「先輩……」  高級車特有の重いドアの閉まる音が聞こえたかと思ったら、覇気のない将之の声が知己の背後から聞こえた。 「なんだ、来たのか」 「見てるだけで、なんかもうハラハラしちゃって。いっそのこと傍で聞いた方が、まだいいかと」  将之も薄氷を踏む思いなのだろう。この男にしては珍しく青ざめている。 「何よ、将之お兄さんもグルなの?」 「違う!」  即答する将之に、 「お前は、一体どっちの味方なんだ?」  知己が尋ねた。 「え……」  将之は戸惑い、視線が知己と礼の間を往復した挙句に中途半端な位置を彷徨った。その上、 「あの…………………………………………………………………………………ちょっと、考えさせてください」  この期に及んで、頭を抱えて座り込んだ。 「まだ車に酔ってんの?」  礼は心配そうに駐車場の縁石に座った将之の顔を覗き込んだが、知己は (本当にもう、こいつ、礼ちゃんが絡むとダメになるなぁ!)  将之の援護は期待できない。  知己はとりあえず将之のことは放っておくことにした。 「知己お兄さんは、『何回も』って言ったけど、それってどういう意味?」  礼が将之の背をさすりながら、知己へと鋭い視線を向けた。 「初めに感じた違和感は、博物館だよ。『あの家に来たら、いつも行く』って言ってただろ? なんか、気になったんだ」 「そう? 私は別になんとも思わないけど?」 「最初は俺もなんとも思わなかったよ。だけど、レプリカのツボの時だってそうだ」 「何よ。将之お兄さんに負けた嫌な思い出よ。それが何なの?」  礼がすっくと立ち上がり、そのまま知己の正面に回った。 「違和感は、重なると確信になる」 「はあ? 意味、分かんない!」  かつてあの門脇蓮にも須々木俊也にも数々のやんちゃな高校生に凄まれたことある知己だったが、礼はまた格別だ。  地雷踏み抜いた知己に容赦ない怒りのオーラを浴びせる。  いつもは愛らしい高めの声も、この時ばかりはヒステリックな金切り声を思わせた。
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