夏休みが来た 11

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「将之に負けた話。子供のころよく来た博物館。この海浜公園にフレンチのレストラン。  よく考えたら、博物館って子供同士で来る所じゃない。特に小学生くらいの時は、親に連れてきてもらうことが多いと思うし、俺はそうだったから。もしかしたら、礼ちゃんも将之もよくお父さんに連れてきてもらったんじゃないか?」  礼ほどではないが、知己も生物学教師をしているくらいそれなりに生き物は好きだ。子供の頃には、父に頼んで家族であの博物館に連れてきてもらったことが何度もある。 「何、それ!  確かに父と来たけど、そんなのこじつけもいいとこだわ!」  取り付く島もない。礼は真っ向否定した。 「もし、礼ちゃんがお父さんのことを考えているのなら、話してみたらどうかと思ったんだけど」 「知己お兄さん。もしかして父に何か頼まれたの? さては、回し者? なんでそんなこと言い出すの?! 私がお父さん大っ嫌いなの知ってて……」 「だったら、どうしてここに来たんだ?」 「懐かしかったからよ! 何よ、アメリカに行った家出娘は懐かしがっちゃダメなの?! あちこち住まい変えている転勤族は、故郷をもっちゃダメなの?! そんなに一か所にとどまっているのが偉いの?!」  キレた礼が一気にまくし立てた。 「そんなこと言ってない! 俺は、礼ちゃんとお父さんがケンカしたままじゃなく、少しでも分かり合えないかなって言っているだけで」 「ふざけないでよ!」  一刀両断した礼に 「……ふざけてないよ」  静かにおうむ返しのように知己が言うと、礼は少しだけ声のトーンを押さえた。 「……ケンカなんかしてないわ」 (え? 猛反対されて、それを突っぱねての家出では?)  知己が驚くと、更に付け加えた。 「あれはケンカなんてものじゃない。  父は私が何を言っても聞いてくれないんだもん。私の一方通行よ。父は生粋の日本人のくせに、日本語の通じない相手だったわ。子供の主張なんか、どうでもいいのよ。自分だけが正しいの。最初から聞く気なんてない。子供の私には、同じ土俵にさえ立てない。だから、ケンカにもならないわ」 (そういう意味か……)  多分、最初のケンカは13歳。中学1年生の転校の時だと聞いた。  つい最近まで小学生だった娘の言う事を取り合わないというのは容易に想像できる。
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