夏休みが来た 11

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「子供を自分の持ち物扱いにしかできないの。と、いうか子供は自分のモノなんだもん。モノが親に不満をもつとか友達ができずに傷ついているとか思ってもいないの。  だから、平気で嘘もつく。 『今度は3年は居られる』なんて言ったくせに、また自分の仕事の都合で転校。  いつもは優しいお母さんもそんな時にはお父さんの言うがまま。お父さんの嘘に慣れっこで、『仕方ないわね』くらいで、普通に引っ越し準備しているし。  私はやっとできた仲良しの友達と、また別れなきゃならなかった……。今度は少なくとも3年間一緒に居られると思ってたのに、またかって……哀しかったわ」  顔を伏せる礼の首元のネックレスが、潮風に乗ってかすかに揺れて静かに光を放つ。  知己はとても礼の顔を見ることができずに、やや視線を落とし、その光を見ていた。 「愛情かけているふりして、その実、それも全部自分の為。  習い事をいっぱいさせ、いい塾に通わせ、いい学校に行かせる。そして子供を自分のステータスの一部にしているの。子供がどんな気持ちかとか関係ないし、ぶっちゃけ、モノ(子供)に友達が居る、別れて悲しんでいるとも気付かずに、ただ次の行った先の仕事のことだけを考えているのよ」 (小さいころから習い事や塾行かされてたのかな? そういや、こいつも小さいころから剣道やってたって言ってたし)  ちらりと将之を見る。  具合悪そうにしながらも、縁石に片膝ついている姿はさしずめ海でおぼれた王子様のようだ。  姫の告白を悲痛な面持ちで聞き入っている。 (きっと礼ちゃんも将之も父親から期待されて育ったんだろうな)  礼も将之も、父の期待に応えることができる賢い子だったのだろう。  親は子供に期待し、子供は親に愛されたくて期待に応える。  すると親はますます子供に期待してしまう。子供はそれにも応えようとする。  膨れ上がった期待に押しつぶされそうになり、大きくなった子供はある日突然、それこそ吹山章のように「親の言っていることが100%正しいわけがない」と反旗を翻すのだ。礼はあからさまに。章はひそやかに。  そう思った瞬間に、知己の頭の中でパチリと音を立ててパズルのピースがハマったような気がした。 「そっか。それで博物館の土器パズルがうまくできなくて、将之に負けたのが悔しかったんだ。お父さんにいいとこ見せられなくて」 「なんで、そうなるのよぉ!」  たまらず、礼が怒鳴った。
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