夏休みが来た 11

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「お父さんは礼ちゃんの学費、9年間ずっと出し続けているんだろ? でも引き換えに礼ちゃんに会うとかそういうのはなしの方向で。一切の連絡も取らずにひたすらお金だけは出してくれているんだろう?  とてもできることじゃないよ」 「それはマサチューセッツの大学院だから、よ。娘がそんな大学行くのは、自分のステータスに箔が付く。だから、よ」 「礼ちゃんがどこに行ったって同じことしたと思うよ」 「親なんだし、扶養家族なんだから当たり前じゃない!」 「当り前じゃないよ。9年間の学費に生活費。どんな金額になるか分かっている? それでも礼ちゃんの夢、応援しているんだよ。お父さんは」 「でも、嘘ついた!」  地雷はどこまでも地雷ならしく、礼の父嫌いの理由は尽きることがない。 「仕方ないこともあるよ。それが仕事なら。  お父さんを全面的に庇う訳じゃないけど、お父さんだって読みが外れることもあるだろうし。まだ中学生だったの礼ちゃんを手放せないだろ?」 「だったら単身赴任したらいいじゃない!」 「こんな可愛い娘と……えっと、あの、多分、可愛かった息子と、そうそう離れて暮らすことなんかできなかったんじゃない?」  ちらりと横目で確認すると、大きく成長した王子様は以前顔面蒼白で所在なさげに佇んでいる。自分のことを「可愛かった」と過去形で言われたことに気付いていない。 「……そう、思う?」  今までの猛攻とは一変し、突然の礼のしおらしい言葉に 「え?」  知己が顔を上げた。  日傘を傾けてあえて顔を見せぬようにしているが、礼の目尻辺りが赤い。  大嫌いな父を9年間心の内で責め続け、その父と和解しろという知己をついでに責めていた礼の変化に知己は戸惑った。  だが、やっと本音を聴けた気がした。 「思う。だって、この海浜公園だって博物館だって、忙しかっただろうにお父さんは礼ちゃん達を連れてきてくれているじゃないか。それだけ可愛がってたんだろうなって思ったよ」
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