夏休みが来た 11

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「……こんな私のこと、可愛いって思う?」  尋ねる礼の声が、くぐもっていた。 (むしろ、「可愛くない」という方が少数派だと思うが)  礼の訊く真意をはかりかねて、知己が答えずにいると 「だったら、なんでお父さん、私のこと自分の持ち物みたいに扱うの?」  礼が先に口を開いた。 「許せないよ! いつだって自分の都合ばっかり! 許せないよ、許せないよ、許せないよ!  私、いつだってどこ行ったって、よそ者だったのに!」  礼がこらえきれずに大粒の涙をポロポロと零した。  その途端 「先輩! 礼ちゃんを泣かせないでください!」  今まで鳴りを潜めていた将之が、すかさず知己と礼の間に入って、そのまま大きな背の後ろに礼を隠した。 (今、この流れでそれ?) 「いくら先輩でも、礼ちゃんを泣かせるなんて」  援護は望めないと思っていたが、ここで礼側に回るとは。 (兄バカ、ここに極まれり) 「やめて、将之お兄さん!」  突然のことに礼が泣きながら、将之の大きな腕にすがった。 「だって、礼ちゃん……!」  背後の礼を気遣う将之を見て、 (所詮、将之は俺より礼ちゃんが大切)  小石を投じた水面のように、知己の中に事実を突きつけられた思いが徐々に広がった。 「もうこの話はやめましょう! 礼ちゃんを泣かせてまでしなくていい話です」  姫の前に立ちはだかる王子は、ここぞとばかりに知己を責め立てた。  さも知己が姫を苛める悪漢のように。 (最初から分かってたことだ。こいつが礼ちゃんを天使だなんだと言ってたときに、俺より大切なんだって……)  そんな次元で考えるのも馬鹿らしいことだが、一度芽生えた思いは消えない。いつまでも知己の頭の片隅で響いていた。  知己を掴みかねない勢いの将之を礼が日傘を放り出して、止めていた。 「やめてったら、将之お兄さん!」 「礼ちゃんは僕の大切な妹なのに……これ以上、礼ちゃんを苦しめないで! 傷つけないで下さい!」
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