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夏休みが来た 12
翌日は日曜日。
礼の滞在は残す所、2日となった。
「あーやーちゃん、あーそーぼ―」
将之が礼の閉じこもるゲストルームの扉に話しかけるが、
「朝ご飯と昼ご飯と夕ご飯とお風呂以外は呼ばないで!」
と叱られていた。
「激おこじゃないですか、もう」
文句を言いながら、すごすごとキッチンに帰ってくる。
知己がリビングでコーヒーを飲みながら様子を眺めていると
「だから昨日『やめた方がいい』ってあれだけ言ったのに……」
戻ってきた将之が恨めし気な視線を向けた。
「はっ?! 裏切者が何か言ってら。最終的にお前は『協力する』って言ったんだけどな」
知己は将之を睨み返した。
「一時の気の迷いで、大惨事……」
将之は昨日のことを激しく後悔して、大きなため息を吐いた。
そんな話をしていたら、天岩戸と化したゲストルームの扉が一瞬開いた。そこから投じられた紙片がひらりと舞う。
「なんだろ? 手紙?」
取りに行こうとする知己を押しのけ、将之が
「きっと僕への手紙だ。礼ちゃん。僕には心開いてくれているんだね」
と昨日壮絶なビンタかまされた男が、嬉しそうに廊下に放り出された礼からの手紙を取りに行った。
「なんだった?」
気になって知己が尋ねると
「……本日のお品書きでした」
と将之が見せた。
【朝】
だし巻き卵、味噌汁、焼き魚、アイコのサラダ
【昼】
カキオコ
【夜】
シイタケの肉詰め、ナスの煮びたし、レタススープ、アボカドサラダ
確かに将之への手紙だ。
「これ、心開いている……っていうのか?」
どう行間を読んでみても将之シェフへの注文としか思えなかった。
「いくつか知らない単語が入っているな。お前、分かるか?」
知己は将之に尋ねた。
「アイコさんって誰?」
「ミニトマトの品種ですね」
「カキオコは? やっぱりおこなのか?」
「お好み焼きのことです。牡蠣の」
紙片で伝えられた礼のリクエストは、相変わらずのアミノ酸祭りだった。
将之は
「アイコじゃない普通のミニトマトならあるんだけど、なぁ」
と冷蔵庫の野菜室を眺めている。
「どうすんだ?」
普通なら「わがままな!」で済ます所だが、日本食に飢えている礼を怒る気にはなれないバカ兄貴が二人、ここに居た。
「近くのコンビニに行ってきます」
「そうか。俺が行く」
知己は飲んでたカップをソーサーに置いた。
「え? いいんですか?」
「他に足らないものは?」
「後は、店が開いてからで間に合います」
「分かった」
短く返事をすると、素早く部屋着からジーンズに履き替え、知己はコンビニへと出かけて行った。
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