夏休みが来た 12

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「俺が居ると気まずいだろ」  と知己は朝食の時間をずらした。  だから、その時の礼の様子は分からない。  後で教えてもらったのだが、 「今日はどこにも行かないで、部屋でゆっくりしたいそうです」  ということだった。  将之のお姫様は、貴重な6日目を一日ゲストルームにお籠りで過ごすように決めたようだ。 「多少、礼ちゃんにしては静かでしたが、元気は元気なので。家でゆっくりするのもアリなんじゃないですか?」  と将之は言うが、礼の滞在は残り二日。 「Time is money.(時は金なり)」  と、気ぜわしく日本に居る時間を惜しんでいたのに。  父親のことを憂いたまま旅立たせたくないと思っていたが、まさか自分のことが礼にとって憂いの種になるとは。  それぞれがなんとなく自分の部屋に行き、三人三様で過ごす。  やがて、時刻は10時を過ぎ、将之が 「牡蠣……その他もろもろ、買ってきまーす」  と買い物に出かけた。  正直、チャンスだと思われた。 (これで、あの日和見なダメ兄に邪魔されることはない)  心の奥に芽生えた(どうせ、俺よりも礼ちゃんが大事)というどこか悲しくてどこか切なくてどこか苦い気持ちは、一旦、もっともっと奥へ押し込み、知己は礼の部屋をノックした。 「礼ちゃん。話、してもいいかな?」  ややあって、礼が返事した。 「……入って」  思ったよりも、すんなり受け入れられた。  知己がスライド式ドアを開けると、礼はベッドに臥せっていた。 「あの……、昨日はごめん」 「そのことなら、もういいわ」  礼はラフなロングTシャツ風のワンピースの部屋着で横たわっていたが、知己が来たのでベッドに座り直した。 「せっかくの貴重な日本滞在時間なのに、今日を無駄にしちゃったみたいで悪いし」 「それもいいの。この何日間で行きたい所はだいたい回ったもの。なんだったら、今日はもう一回博物館でも行こうかなって感じだったし」 「行かないのか?」 「行けると思う? 昨日あんな話をされて、今日、行ったら私、完璧なファザコン娘だわ」 「……ごめん」 「ううん。やな言い方した。私の方が、ごめんなさい」  おもむろに礼は立ち上がって、部屋のドアにカギをかけた。 「どうして?」  知己が訊くと 「将之お兄さんに聞かれたくない話、パート2をしたいから」  と礼が答えた。 (パート1。俺が将之に喋って、ごめん)  知己は心の中で詫びた。  礼の地雷を知らせるにあたり、どうしても理由を言わないわけにはいかなかったのだ。
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