夏休みが来た 12

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「転入生って、言ってみれば新参者でしょ。学園カーストの最下位なのよ。そこから認めてもらうのって大変なの。友達になりたくても、派閥? グループみたいなのがあってなかなか入れないし、ね。そんな心の狭い人たちのグループに入りたくもなかったけど、……でも子供の頃って、友達が居ないのは変だとか恥ずかしいことだとか思ってた。思えば『友達百人できるかな』って残酷な歌よね。あの歌の所為で友達が多い人が、さも素晴らしいみたいな感覚が子供心にあって。だから、無理して自分からできるだけお話するようにして、輪の中に入るようにしてたけど……なんかぎくしゃくして上手くいかなくて」  学園カーストや『友達は多いほど良い』の辺りは礼独自の解釈だろうが、そう思いながらの転出入は辛かっただろうと知己にも想像できた。 「気付いたら将之お兄さんだけ。いつも私の傍に居てくれたの」  礼は正面を向き、隣の知己を見ることはなかった。 「転入生ということではお兄さんも似たような境遇のくせに、男子はあんまりそういうの関係ないみたい。すぐに誰とでも友達になってたわ」  そこまで言うと、膝の上の枕をぎゅうっと抱きしめた。 (女子は有りがちだよな)  幸か不幸か、職業・高校教師の平野知己には、それが痛いほど分かる。  女子間の派閥争いは男子や教師も知らぬ水面下で展開し、思いもよらぬ陰湿でややこしい騒動を巻き起こすことが度々あったのを思い出した。 「所属感っていうの? それが私にはない。いつも宙ぶらりん。誰からも気を遣われている存在のくせに、決して一番大切には思ってもらえない。  いつだって、どこに行ってもよそ者。一つ所には居られない。  だから、お父さん嫌ったっていいじゃない。この元凶は、転勤ばかりするお父さんの所為なんだから、嫌いになったっていいじゃない。私が不幸なのは、お父さんの所為。だから憎んだっていいじゃない。  ……そう、思ってた」 (……『思ってた』……)  過去形で伝える礼の横顔を知己は眺めた。 「でも、違ったのね。  父の付属品のように当たり前に転勤に付き合わされるのが嫌になって、アメリカ留学。頭ごなしに否定されたから、それから一切音信不通。でもお兄さんとだけはこっそり会いに日本に来て、懐かしい所巡りして……気付かずに、お父さんとの思い出をたどってたんだ、私。知らなかった。自分のことなのに、分かってなかった」
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