夏休みが来た 12

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「また怒られるのは嫌だし邪魔されても困るからと、荷物詰めたトランク持って、誰も起き出さない早朝のうちにそっと家を抜け出したの。お兄さんの時と違って、誰にも望まれずに旅立つのが悲しくて寂しくて。 『本当にこれで良かったのかしら』と不安で不安で、途中、何度か引き返そうかと思ったわ。でも『私は行くんだ』って何かに憑りつかれたように呟きながら、空港へ向かったの。  だけどなんだか涙が溢れて、一人、羽田へ向かうモノレールの中で泣いたわ」  まだ夜が明けぬうちに、家を抜け出す。  キャスター付いたアメリカ行きの大きな荷物を音をさせずにそっと待ち運ぶのは大変だったろう。  モノレールの中のゴトゴトという無機質な音を聞きながら、明けていく空を一人で見つめる。  本当なら夢を叶えての期待に満ちた旅立ちの筈なのに、家族から反対され、「これで良かったのか」と不安が胸を占めた。  その時のことを思い出して、礼の頬伝う涙がぽたぽたととめどもなく枕に落ちて、シミを作った。 「う……」  長く語っていた礼が、顔を伏せ、枕に押し付けるようにして泣きはじめた。  枕が声を受け止め、聞こえる嗚咽はほんの少し。隣にいる知己にはほとんど聞こえなかったが、背中が細かく震えている。  そっと知己は手を伸ばし、礼の背を撫でた。  しばらく礼の途切れ途切れの泣き声が聞こえ、やがて、気持ちが治まったのか体をむくりと起こした。 「きっと、本当に憑りつかれていたのね……。 『今度行くアメリカでなら友達作れる、一つの所に居られる』……って思いに……」  未だ涙声で語る。  憑りつかれた思い。  振り払った家族の手。  占める不安。  その時のいろんな気持ちを思い出していた。  礼の泣き顔を見ていたら、女性に泣かれたこともないし、姉妹も居ない知己はどうしていいのか分からず、戸惑った。  だけどどうしても泣き止んで欲しくて、知己は無言で背中を撫でてた手を頭に乗せた。  そのまま、礼の柔らかなカールの髪を撫でる。  すると、逆効果だったらしく、また礼の目に涙が溢れてきた。 「うっ……」  礼の顔にぐっと力が入ったかのように見えたとたん 「知己お兄さんっ……!」  知己の胸に礼は飛び込んだ。  半ばタックルするかのように背に手を回されて、今度は知己の胸の中で堰切ったかのようにわんわんと声を憚らずに泣いた。
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