夏休みが来た 12

7/27

242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
「ごめんなさい。あんなに可愛がってくれたのに、お父さん、お母さんを悲しませてごめんなさい。でも、でも、どうしてもアメリカに行きたかったの。居場所が欲しかったの。もう振り回されたくなかったの!」  自分自身、末っ子で家族に好かれるのが当たり前だと思っていた礼。親に愛されている自覚があったのだろう。親は手元に置いておきたいと思い、だが礼の心は旅立ちを望んだ。  礼の気持ちを押し切った形でのアメリカ留学。  親に対し、ずっと後ろめたい思いを抱えていたのだろう。  誰にも分かってもらえず、誰にも言えない、ずっと閉じ込めてた思いだった。  礼はまるで懺悔でもするかのように、泣きながら叫んだ。  知己はなんと声をかけていいか分からなかったので、ただ黙って礼が泣き止むまで背中を撫でていた。 「……」  再び落ち着いた礼は、つと知己から離れた。  子供のように泣き喚いたのが恥ずかしかったのだろう。  知己の顔を見ずに、目と鼻を真っ赤にして無言でサイドテーブルのティッシュを取る。ごしごしときまり悪そうに拭いたティッシュは、ゴミ箱に放物線を描いて投げ込まれた。  そのまま、さっき泣いたことはなかったことにして、リセットするかのように元の知己から少し離れた位置に戻った。 「……そんな感じの出発だったけど、アメリカはね、行ってすぐに良かったと思ったわ」  少し鼻にかかった声ではあったが、もう泣く気配はない。  それに知己は安心した。 「後悔なんかしてないわ。それなりに友達出来たけど、染みついた習性って抜けなくて、やっぱりどこか宙ぶらりんな感じがいつもしていて、居場所作りに必死だった気もするの。  だから高校、大学、院と全部向こうで決めたの。修士課程は今期で卒業だけど、もう5年ほど向こうに居ようと博士課程も受けたわ」 (そうか。礼ちゃん、修士課程修了の区切りに日本に戻ってきたのか)  知己は礼の枕のシミを見つめた。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加