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「ごめんなさい。あんなに可愛がってくれたのに、お父さん、お母さんを悲しませてごめんなさい。でも、でも、どうしてもアメリカに行きたかったの。居場所が欲しかったの。もう振り回されたくなかったの!」
自分自身、末っ子で家族に好かれるのが当たり前だと思っていた礼。親に愛されている自覚があったのだろう。親は手元に置いておきたいと思い、だが礼の心は旅立ちを望んだ。
礼の気持ちを押し切った形でのアメリカ留学。
親に対し、ずっと後ろめたい思いを抱えていたのだろう。
誰にも分かってもらえず、誰にも言えない、ずっと閉じ込めてた思いだった。
礼はまるで懺悔でもするかのように、泣きながら叫んだ。
知己はなんと声をかけていいか分からなかったので、ただ黙って礼が泣き止むまで背中を撫でていた。
「……」
再び落ち着いた礼は、つと知己から離れた。
子供のように泣き喚いたのが恥ずかしかったのだろう。
知己の顔を見ずに、目と鼻を真っ赤にして無言でサイドテーブルのティッシュを取る。ごしごしときまり悪そうに拭いたティッシュは、ゴミ箱に放物線を描いて投げ込まれた。
そのまま、さっき泣いたことはなかったことにして、リセットするかのように元の知己から少し離れた位置に戻った。
「……そんな感じの出発だったけど、アメリカはね、行ってすぐに良かったと思ったわ」
少し鼻にかかった声ではあったが、もう泣く気配はない。
それに知己は安心した。
「後悔なんかしてないわ。それなりに友達出来たけど、染みついた習性って抜けなくて、やっぱりどこか宙ぶらりんな感じがいつもしていて、居場所作りに必死だった気もするの。
だから高校、大学、院と全部向こうで決めたの。修士課程は今期で卒業だけど、もう5年ほど向こうに居ようと博士課程も受けたわ」
(そうか。礼ちゃん、修士課程修了の区切りに日本に戻ってきたのか)
知己は礼の枕のシミを見つめた。
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