夏休みが来た 12

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「どうして、この話は将之には内緒?」 「だって、昨日もそうだったじゃない」 「?」 「私が泣いたら飛び出してきて……」 (ああ、あれか)  昨日の嫌な思い出がよみがえる。 (俺よりも礼ちゃんが大切ってヤツ)  昨日よりはいくらか冷静に受け止められたが、正直、思い出したくなかった。 「いつもなの。私が泣くとすぐに要らぬ気遣いをするの」 (要らぬ気遣い……?) 「私、昔っから泣き虫で、何かあるとすぐに泣いてたの。するとお兄さんが飛んできて、やたらと庇うの。ほっといてくれた方がいい時もあるのに、『どうしたの、礼ちゃん! 何があったの?!』って理由を聞き出すまで、しつこいの」 (……分かる気はする……)  礼の涙は、恐ろしい。魔力か何かを持っている。それはさっき、知己も身をもって知った。 (何にもできないけど、とにかくなんとかしてあげたいって思うんだよな)  と、先ほど礼の背を撫でるだけしかできなかった右手を見た。 「博物館の時なんか最悪よ。あの土器パズル。私に解けなくてお兄さんにできた時に、悔しくてぽろっと泣いちゃったのね。そうしたら、慌てて 『ごめんね、礼ちゃん。今度は僕、上手に負けてあげるからね』  って慰めるの。  どう思う?」 (言いそう!)  幼い将之が、ひどく申し訳なさそうに上から目線の謝罪を至極ナチュラルに行う姿が想像できた。 「……確かに、酷い気遣いだ」 「でしょ? もちろん、その後引っ叩いてやったんだけど……」  昨日のビンタは、小学生からやっていたものらしい。 (あ、それであいつ……俺のビンタを避けるのは巧いのか)  将之の天然失言で、知己もビンタ繰り出すことがあるが、意外に避けるのが上手だった。 (小さい頃から、面倒で、失礼な発言をしては礼ちゃんにビンタされていたのか)  知己は納得した。 「こんな感じで、お兄さんが絡むと何かと面倒になりがちだから」  相変わらず、礼の将之の評価は正しい。 「だから、転入の度にこんなことになってたなんて知ったら、どんな余計な気遣いするか……言えなかった」  確かに礼を振った男に、アメリカまで報復しに行きかけたくらいだ。礼が秘密にしたがるのは分かる。 (礼ちゃんの言う通り、パート1話した段階で本当に面倒になりかけたし、な)
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