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「何、変な顔しているの?」
泣きはらした目で礼が知己の変化を見抜いた。
「いや、あの……ごめん」
うっかり将之に内緒の話をしたことを謝ると
「なんで、謝るの?」
礼が以前「解せぬ」とばかりに訊いた。
(理由は口が裂けても言えない)
何故なら将之に喋ったことが礼にバレるからだ。
「え、あ、いや……。向こうの博士課程に行くんだな、と思って」
将之よりはうまく誤魔化せたと知己は思った。どう考えても誤魔化せてはいなかったが、礼は空気を読んで、あえてそれ以上追求しなかった。
「やっとできた私の居場所だし。それ以上にロボット工学を極めたいから、ね。頑張るんだ、私」
礼は両手で軽く拳を作ってファイティングポーズを取る。
その顔に憂いも迷いもない。
「後、5年も帰ってこないなんて……今、正直驚いている」
「知己お兄さん。寂しい?」
礼が戸惑いがちに訊く。
「そりゃ。ずっと居てほしいくらいだし」
知己が本心から告げると、礼が嬉しそうに微笑んだ。
(良かった)
やっと礼に笑顔が戻った。
「知己お兄さんって、不思議ね。ちょうどいい距離感。『先生』をしている所為? 職業病かしら」
「そこは職業柄って言ってほしいな」
「あら、またてにをは間違えた? でも、どっちでもいいんじゃない? 大体合っているし」
てにをはのレベルではないし、大体合ってもいない。
「べったりでもなければ、よそよそしくもなく。つかず離れずって感じ?」
「それ、褒めているの?」
「多分、褒めてる」
礼は、うふふと笑った。礼の花のような笑顔につられて、知己も笑った。
「礼ちゃん。後、5年も向こうの学校に行くのなら、やっぱりお父さんと話しておかないか?」
「また、その話? うーん……メールじゃだめかなぁ?」
(音信不通から、メール……)
礼に連絡とる気があるとみた知己は、これ以上こじらせないためにも
「直接がいいと思う」
と言ってみた。
礼のいう職業柄、生徒同士でメールで拗れたケースもみたことがある。誤解招かない為にも、直接顔見て話すのがいい。
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