夏休みが来た 12

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「何、変な顔しているの?」  泣きはらした目で礼が知己の変化を見抜いた。 「いや、あの……ごめん」  うっかり将之に内緒の話をしたことを謝ると 「なんで、謝るの?」  礼が以前「解せぬ」とばかりに訊いた。 (理由は口が裂けても言えない)  何故なら将之に喋ったことが礼にバレるからだ。 「え、あ、いや……。向こうの博士課程に行くんだな、と思って」  将之よりはうまく誤魔化せたと知己は思った。どう考えても誤魔化せてはいなかったが、礼は空気を読んで、あえてそれ以上追求しなかった。 「やっとできた私の居場所だし。それ以上にロボット工学を極めたいから、ね。頑張るんだ、私」  礼は両手で軽く拳を作ってファイティングポーズを取る。  その顔に憂いも迷いもない。 「後、5年も帰ってこないなんて……今、正直驚いている」 「知己お兄さん。寂しい?」  礼が戸惑いがちに訊く。 「そりゃ。ずっと居てほしいくらいだし」  知己が本心から告げると、礼が嬉しそうに微笑んだ。 (良かった)  やっと礼に笑顔が戻った。 「知己お兄さんって、不思議ね。ちょうどいい距離感。『先生』をしている所為? 職業かしら」 「そこは職業って言ってほしいな」 「あら、また間違えた? でも、どっちでもいいんじゃない? 大体合っているし」  てにをはのレベルではないし、大体合ってもいない。 「べったりでもなければ、よそよそしくもなく。つかず離れずって感じ?」 「それ、褒めているの?」 「多分、褒めてる」  礼は、うふふと笑った。礼の花のような笑顔につられて、知己も笑った。 「礼ちゃん。後、5年も向こうの学校に行くのなら、やっぱりお父さんと話しておかないか?」 「また、その話? うーん……メールじゃだめかなぁ?」 (音信不通から、メール……)  礼に連絡とる気があるとみた知己は、これ以上こじらせないためにも 「直接がいいと思う」  と言ってみた。  礼のいう職業柄、生徒同士でメールで拗れたケースもみたことがある。誤解招かない為にも、直接顔見て話すのがいい。
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