夏休みが来た 12

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「だけど、何の話も聞いてもらえずに、私は家出をしちゃったのよ」  ケンカにもならない相手の顔を見て改めて話すのは、正直、ハードルが高い。まるで棒高跳びのようなハードルを前にしている気分だ。 「だから、猶更、直接会って話すのがいいと思う。それに礼ちゃんは」 「私は?」 「博物館で『相手がロボットだから人の言葉が分からないのは仕方ない。苦手だけどC言語も頑張る』って言ってたじゃないか。それほどまでに相手を分かろうとできる子なんだ。同じように、お父さんにも言葉を尽くして気持ちが伝わるようにしたらどうかな? って思うんだけど」 「9年前、まったく話を聞いてくれなかった相手に?」  頑なに怯む礼に、知己はふと己を振り返った。 「……そうだね。……俺が卑怯だった」 「え? 知己お兄さんが? どうして?」  急な話に礼が戸惑う。 「俺も分かってもらえないと最初から諦めて、伝える努力をしてない相手が居る。それなのに礼ちゃんにばかり、話してみろだの努力しろだの言うのは卑怯だなって思って。  隠しているだけで、何も始まらない。  言ったら、分かってもらえる可能性もあるのに……最初から諦めて……」  そこまで言うと、礼がにやりと笑った。 「あー、分かった! あの人のこと? 告白でもするの? ちょっとなんだか嬉しいんですけどぉ! いやん、wktk(ワクテカ)ー!」  キラキラと目を輝かせて、礼が食いついた。 「いや。告白するのは、今から」  知己は覚悟を決めた。 「え?」  礼の動きがピタと止まる。  ひた隠しにしてきたが、それは卑怯。  だが、告白するのは勇気がいる。  礼の怯む気持ちも分かる気がする。 (だけど、今は言おう。言って、分かってもらおう)
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