夏休みが来た 12

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「何やってんですか?」  部屋を追い出され、トボトボとリビングに戻る知己に、既に帰っていた将之が声をかける。 「なんだ。……帰ってたのか」  礼の部屋に踏み込まなかった将之を不思議に思えば 「帰ったら先輩の姿見えないし、礼ちゃんの部屋に鍵かかっているし。中の声はよく聞こえないけど、なんか先輩が頑張っている雰囲気は感じられたんで。  ほら。よく言うじゃないですか。雨降って地固まる、って」  どうやら、はやる心を押さえ、二人のことを見守ってくれたらしい。 (すまん。降らせたのは豪雨だ) 「起死回生の一発を期待してたんですが、その様子では……どうも玉砕だったようですね」  苦笑いを浮かべるその顔は、まるで「どんまーい(Don't mind.)」と言ってるかのようだ。  きっと、まさかこれ以上の最悪な事態を招くまいとタカを括ってのことだろう。 (すまん。砕けたのは、多分、俺だけではなくお前もだ)  知己は無言で将之を見た。 「……いい匂いだな」 「これがカキオコですよ」  牡蠣の焦げた匂いが食欲をそそる。 「玉砕した先輩は、とりあえず部屋にすっこんでてください。ハウス」  昨日「ステイ」させた仕返しだろう。  それと落ち込む知己に、わざと悪態ついているのかもしれない。  どちらにしろむかつく発言だが、今は将之に抗う気力も起きない。  すごすごと部屋に行く知己の背中に 「次は僕にお任せください。ほどよくお腹も空いていることでしょうし、この至極のカキオコで礼ちゃんの心を開いてみせますよ」  と将之は意気揚々と語り掛けた。  知己が部屋に戻るのを確認すると、将之は礼の部屋をノックした。 「あーやー()ちゃーん! お昼ご飯だよー!」 「将之お兄さんの顔も見たくないわ! そこに置いてってー!」  礼の心どころか部屋の扉も開くことはできなかった。
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