夏休みが来た 12

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 それから重たい空気が流れた。 「……どうすんです? 我が家のお姫様がニートになっちゃったじゃないですか」  夕飯も同じ状況だ。  ご飯運ぶ将之が、ノックし、お盆を廊下に置く。  将之が去ったタイミングでドアが開き、次の瞬間にはしゅばっと光の速さでお盆が中に持ち去られるのだ。  知己には、ニートというか、姿を見せぬ野生生物の俊敏さを思わせた。  ただ、きちんと完食したからっぽの器に「ごちそうさまでした」の紙が添えられていた。  それを見て「そうだよな」と知己は呟いた。  どんなに将之や知己を受け入れられなくても、食事に対しての(れい)は欠かさない。それは、礼の揺るがない主義。 (すべてが叶うわけではないけど、礼ちゃんは言いたいこと、やりたいことを妥協しないでやり通す子なんだ)  転入を繰り返しては人の輪に入ろうとたえず努力し、苦痛を味わい続けた教訓か。  礼は言いたいことやりたいことを曲げない。  それゆえに、今も、父へ言いたいことを9年も言えずに苦しんでいる。  夜、将之が風呂に入ったのを見計らって、知己は開かずの礼の部屋をノックした。 「礼ちゃん」  中で人の動く気配がする。  実際に朝、将之と礼は会話している訳だし、やはりドア付近でなら話ができるようだ。 「嫌なら開けなくても構わない。そのまま聞いて」 「……聞かないわ。昼に聞いて、損しちゃったもの」  ドアを挟んでの聞き取りにくい声が返ってきた。  損……。  そう言われると傷つく。  思わず知己が唇をかみしめると、礼の方から話し始めた。 「実は……知己お兄さんが朝コンビニに行ってくれた時に、将之お兄さんが部屋に来たのよ」 (将之が?)
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