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それから重たい空気が流れた。
「……どうすんです? 我が家のお姫様がニートになっちゃったじゃないですか」
夕飯も同じ状況だ。
ご飯運ぶ将之が、ノックし、お盆を廊下に置く。
将之が去ったタイミングでドアが開き、次の瞬間にはしゅばっと光の速さでお盆が中に持ち去られるのだ。
知己には、ニートというか、姿を見せぬ野生生物の俊敏さを思わせた。
ただ、きちんと完食したからっぽの器に「ごちそうさまでした」の紙が添えられていた。
それを見て「そうだよな」と知己は呟いた。
どんなに将之や知己を受け入れられなくても、食事に対しての礼は欠かさない。それは、礼の揺るがない主義。
(すべてが叶うわけではないけど、礼ちゃんは言いたいこと、やりたいことを妥協しないでやり通す子なんだ)
転入を繰り返しては人の輪に入ろうとたえず努力し、苦痛を味わい続けた教訓か。
礼は言いたいことやりたいことを曲げない。
それゆえに、今も、父へ言いたいことを9年も言えずに苦しんでいる。
夜、将之が風呂に入ったのを見計らって、知己は開かずの礼の部屋をノックした。
「礼ちゃん」
中で人の動く気配がする。
実際に朝、将之と礼は会話している訳だし、やはりドア付近でなら話ができるようだ。
「嫌なら開けなくても構わない。そのまま聞いて」
「……聞かないわ。昼に聞いて、損しちゃったもの」
ドアを挟んでの聞き取りにくい声が返ってきた。
損……。
そう言われると傷つく。
思わず知己が唇をかみしめると、礼の方から話し始めた。
「実は……知己お兄さんが朝コンビニに行ってくれた時に、将之お兄さんが部屋に来たのよ」
(将之が?)
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