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「……礼ちゃんは生き物なら子孫繁栄でなんぼだと言ってた。確かにそうかもしれない。男同士だし、全然生み出すものがないかもしれない…‥けど」
何の反応もない。
だけど、きっとドア付近で聞いてくれている。
そう信じて、続ける。
「でも俺はあいつと、どこまでも一緒に居たいと思った。生み出すものが何もなくても、一緒にいると嬉しい。
朝一番にあいつに会って、夜眠る最後の一瞬まで一緒に居たいって思ったんだ。
ただ一緒に居るだけ。
それは何も生み出さないのだけど、俺はすごく嬉しいし、居心地いい。
きっとあいつもそうなんだと思っている。
それじゃ、だめかな?」
一気にまくし立てた。
返事はない。
やはり聞いてもらえなかったのか?
それとも聞いていてこの反応なら……
(それはダメだと言われたようなものだ)
知己はゆっくりと溜息を吐いた。
知己がそっとドアから離れようとしたときに
「明日……」
と礼の声が聞こえた気がした。
慌てて、ドアに張り付く。
「明日……朝、出発するわ」
「……え?」
予定では明日の夜の便だったが?
「出発早めたの」
「礼ちゃん……! そんな……!」
ここにはもう居たくないということか。
「空港まで送ってくれる?」
「……」
礼の最愛で唯一心を開いていた兄を奪ったばかりか、故郷まで奪ってしまった。
潮で満たされる海岸のように、知己に悲しみと後悔が広がる。
「ダメ?」
返事がない知己に、催促するかのように礼が訊く。
ドアを挟んでいるので、礼の顔は見えない。
(どんな気持ちで頼んでいるのだろう?)
想像するしかできないことが余計に知己を悲しませた。
「……うん」
せめて、そのくらいはしよう……と知己に償いの気持ちが芽生え
「いいよ。送る」
やっと返事をすることができた。
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