夏休みが来た 12

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「礼ちゃーん。お兄ちゃん、寂しいよ! 明日の夜に帰るって言ってたのに早めるなんて」  風呂上がりに知己から礼の出発を早めた話を聞き、将之が泣きそうな勢いでドアを叩いた。 「うるさいなぁ。もう寝るんだから、静かにして! 明日は早いんだからね!」  案の定門前払いを食らって、将之はリビングにやってきた。  心当たりしかない知己は、 「俺の所為なんだ……」  と呟いた。 「僕のお風呂の間に、また何か言ったんですか?」 「すまんな」  昼間に自分たちの関係を話したことは伝えていたが、それ以上に怒らせることを言ったつもりはなかった。  逆効果だった。  自分だって隠していることがあるのに、礼にばかり父と話せということがとても卑怯に思えた。別に範を見せるなど偉そうにするつもりもなかったが、ただ話したら分かってもらえることがあるのではないかと期待していた。  もしも自分達のことを分かってもらえたら、礼も勇気が出るのではないかと思ったのだが。 (甘かった……。またもや50年に一度の豪雨になってしまった。しかも出発を早めるだなんて……) 「将之。ごめんな」 「さっきから謝ってばっかりですよ。先輩」 (しかも、謝る相手が違うと思います)  将之は思ったが口にしなかった。 「まあ、よくここまで隠したと思いますよ。大体、一週間も隠し通すなんて無理があったんです。これはもう仕方ないんじゃないですか?」 「でも、……俺が言わなきゃ、きっと隠し通せてた」 「ですよねー」  苦笑い浮かべる将之に 「少しはフォローしてくれないのか?」  海浜公園のように礼をひたすら庇う将之の姿を思い浮かべて、知己は言った。 「だって、下手な慰めは余計に辛いでしょ?」 「う……」  確かにその通りだ。 「もう、寝ましょ。礼ちゃんも言ってたけど、明日早いみたいですし」 「うん……」 「バレたついでに、一緒に寝ますか?」 「さすがにそれは嫌だ」  きっと明日の朝、礼の容赦ない「もいきー!」攻撃に遭うだろう。 「おやすみ」  ねむれるかどうか自信なかったが、知己はすごすごと自分の部屋に戻っていった。
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