夏休みが来た 12

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 翌朝、7時。 「朝ご飯はどこかで食べましょ。さ、すぐに出るわよー!」  すっかりメイクも着替えも済ませた礼が、将之と知己の部屋を順に回って起こしに来た。  約1日ぶりに礼の顔を見た知己は、少なからず緊張した。  一体、何時から起きていたのだろう。  完璧なメイク。  ゆったりと巻かれた髪はカチューシャ代わりの大き目のスカーフでまとめられていた。  スカーフと同じ白黒モノトーンの格子柄スーツに身を包んだ礼は、いつもより少し大人びて見える。 (ああ、アメリカに帰っちまうんだな……)  気合の入ったいでたちに、唐突に別れが迫っていることを感じた。  部屋の入口付近で仁王立ちの礼に 「あの、……俺は遠慮するよ」  ベッドで上半身だけ起こした知己が言う。 「()を送らない気?」 「いや、そういう意味じゃなく……」  知己は俯いた。 「俺達二人で送るのは、礼ちゃんが嫌かなっと思って。  将之が一人、君を送るよ」 「やだ。変な気を遣わないで。  確かに。空港帰りに二人きりになって『やっと邪魔者いなくなったねー』とか言われるのは嫌だけど」 「そんなこと、言うわけない」  慌てて否定すると 「じゃあ、来てよ」  すかさず礼が言う。 「いいの?」  願ってもない。  知己はマンションの駐車場まで送ったら、別れるつもりだった。  昨日の今日。知己と顔を合わせるのも嫌だろうと思っていただけに、礼のお誘いは嬉しかった。  旅立つ礼と一刻でも長く一緒に居たい。 「そりゃ、もいきーはもいきーだけど。今度はいつ会えるか分かんないし。だから、知己お兄さんにも送ってもらいたいわ」 (やっぱり「もいきー」では、あるんだ……)  地味に傷ついていると、礼は知己の顔を見ないようにしてさっさと部屋を出て行った。  次は将之に声をかける。 「将之お兄さーん! 準備済んだ?!」 「もー、礼ちゃん。いっつも急なんだからー!」  と、文句を言いながらも将之は礼の言うがままに身支度を整えていた。 「早くー! 準備できたら出発よ!」 「そんなに急いで……。忘れ物しても、しらないよ」  将之が言うと 「平気! 私は昨日の夜から、準備しているもん」  礼姫は、昨日の引きこもり生活から一変し、いつもの調子を取り戻しているかのようだ。 (だけど、カラ元気にも見えるんだよな)  無理して明るく振舞っているかのようにも見える。
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