夏休みが来た 12

19/27

242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
 海に出かけた時と同じように、将之が車を出し、助手席に礼が座った。知己は後部座席だ。  ただあの時と違って、車の中はまるでお葬式のようだった。 「……」  誰も口を開かない。  家から空港まで高速道路使えば、30分もあれば着く。  そこから飛行機で一旦、羽田に行って乗り換える。羽田からはマサチューセッツへの直行便が出ているらしい。  途中のSA(サービスエリア)に寄り、簡単な食事を済ませたが、その間も終始無言。 「……ねえ」  次に車が止まるのは空港。  SAから高速道に戻った車の中、たまりかねた礼が口火を切った。  「ねえってば! なんで早めたのか聞かないの?」  出発を早めた理由?  そんなの決まっている。 (「二人の顔も見たくないから」なんてトドメ刺されるようなこと言われたら、再起不能だ)  ちらりとバックミラーを見ると、将之と目が合った。  おそらく同じことを考えている。  他の話だって、安全とは言えない。  昨日一日断絶していた礼と、何か話して、万が一にもこれ以上嫌われたくない。 (そうでなくても、「もいきー」認定されているのに)  だから、どんな話をしたらいいのか分からずに、いっそ話すことを避けていた。  車窓から流れていく景色に寂しさが募る。  高速を降りたら、空港はすぐ。  いよいよ、礼との別れが近付いている。   「……余計なことはしつこく訊く癖に、こういう時は変に気を回すんだから!」 (怒られた。礼ちゃんに怒られた)  やはりミラー越しに、二人の悲しそうな目が合う。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加