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海に出かけた時と同じように、将之が車を出し、助手席に礼が座った。知己は後部座席だ。
ただあの時と違って、車の中はまるでお葬式のようだった。
「……」
誰も口を開かない。
家から空港まで高速道路使えば、30分もあれば着く。
そこから飛行機で一旦、羽田に行って乗り換える。羽田からはマサチューセッツへの直行便が出ているらしい。
途中のSAに寄り、簡単な食事を済ませたが、その間も終始無言。
「……ねえ」
次に車が止まるのは空港。
SAから高速道に戻った車の中、たまりかねた礼が口火を切った。
「ねえってば! なんで早めたのか聞かないの?」
出発を早めた理由?
そんなの決まっている。
(「二人の顔も見たくないから」なんてトドメ刺されるようなこと言われたら、再起不能だ)
ちらりとバックミラーを見ると、将之と目が合った。
おそらく同じことを考えている。
他の話だって、安全とは言えない。
昨日一日断絶していた礼と、何か話して、万が一にもこれ以上嫌われたくない。
(そうでなくても、「もいきー」認定されているのに)
だから、どんな話をしたらいいのか分からずに、いっそ話すことを避けていた。
車窓から流れていく景色に寂しさが募る。
高速を降りたら、空港はすぐ。
いよいよ、礼との別れが近付いている。
「……余計なことはしつこく訊く癖に、こういう時は変に気を回すんだから!」
(怒られた。礼ちゃんに怒られた)
やはりミラー越しに、二人の悲しそうな目が合う。
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