夏休みが来た 12

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「せっかく聞かれたら喋ろうと思ってたのに。もういい! 勝手に喋るんだからね!」 (……なんだろ?)  知己が不思議そうな顔をした。 (あ。今の言い方、ちょっとツンデレっぽい)  将之はちょっと嬉しそうな顔をしていた。きっと今だけは二人、別々のことを考えている。 「昨日、……お、お母さんに……メール送ってみたの!」 (お母さん? お父さんじゃなく?) (なぜ、礼ちゃんはキレてるんだ?) 「本当はもっと早く言いたかったのに。なによ、二人ともケソケソしちゃって、さ。言い出せなかったじゃないの!」  ぷーいと、礼はふてくされたように窓側を向いた。 (いや、礼ちゃん……。俺達を断固拒否してたよね? 全面否定して、喋らせてもくれなかったよね?)  一人部屋に閉じこもっていたことも、枕での殴打撃退も、礼の中でなかったことにされているのか?  知己がどう返事したらいいか迷っていると、窓ガラスの反射で見えた礼の顔は赤い気がした。  見間違いかと思って、二度見する。  スカーフのヘアバンドで礼のゆるふわ髪がまとめられている。そこからわずかに見えている耳が赤い。 (間違いじゃない)  臍まげてそっぽ向いているように見えたけど、窓の外見ている振りして赤くなった顔を隠しているのだ。手持無沙汰か、ネックレスの四つ葉モチーフをずっと弄っているのも鏡の反射で見えた。 (あ、これ。多分、照れ隠しだ……)  あれだけ「嫌だ」「どうせ分かってもらえない」を連呼してたのだ。  機会がなくて、言いにくかったのだろう。  礼の変化に気付いて、知己はちらりとバックミラーを見たが、運転席の将之は気付いてなさそうだ。  将之は空港の駐車場に車を停めるのに、バックギアを入れた。  まるで駐車スペースに吸い込まれるように車を停車させる。 「そ……そしたら、母からの返事。 『羽田のブラックカードしか入れないラウンジで、マスクメロンまるまる一個使ったスペシャルパフェを父が奢るって言っているがどうする?』  って来たから、出発早めたの!」 (礼ちゃん、モノで釣られた?)
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