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「責任、とってよ」
「せき……にん?」
「そう、責任」
「……」
言われた意味が分からずに不安げに揺れる卿子の瞳に、
「あー、何、その不満そうな顔」
俊也は更に追い込みをかけた。
「もう、新聞社とかにチクっちゃおうかなー。『高校職員、高2生徒に頭突き。』とか。いい?世の中は、学校ネタ、警察ネタ、不祥事ネタ、大好きなんだってさ。『八旗高校、生徒も最低なら職員もダメダメだった!』みたいな。きっと、この話に飛びつくと思うよ。あ、今はSNSとかの方がいいか。すぐに炎上するからな。
それでいい?」
卿子は青ざめ、恐怖で声が出ない。言葉なく、首を横に力なくフルフルと振る。
「じゃ、お姉さんに頭突きされたこと誰にも言わない代わりに、ちょっと言うこと聞いてくんない?」
「え?」
「お姉さん、ちょっと立ってみてよ」
「……?」
言われたものの、卿子がいまだ戸惑っていると
「立てって言ってるだろーがぁぁぁっ!」
突然、細い目と整えられた眉を吊り上げて、俊也が声を荒げた。こんな時は人相の悪さが役に立つ。
「きゃあ!」
ますます怯える卿子に業を煮やし、俊也が
「ちっ」
舌打ち交じりに腕を掴んで乱暴に引き上げたので、卿子は強引に立たされた。
よろめく卿子が倒れないように掴んだまま、顔を下から覗き込む。
「前々からお姉さんの足、綺麗だなぁと思ってたんだよね」
「……?」
今日の卿子は膝下長さのペパーミントグリーンのワンピースを着ていた。爽やかで鮮やかだったそれは、先ほど非常口ドア前のコンクリートに倒れたはずみで無残にもあちこち土がついている。
俊也はそれを見ながら
「だから、さ。ちょっとだけスカート上げて、生足見せてよ。それであんたの頭突きはチャラにする。どう?」
と取引をもちかけた。
「……」
卿子は怯えて声が出ない。やはり首を横に振って答えるだけである。
「あのさー……」
卿子の態度に、俊也が苛立つ。
「何もパンツまで見せてって言ってんじゃねーんだぜ。そうだな……。ちょっとスカート上げて太腿辺りまで見せてくれたらいいんだ。見せるだけ。俺たちは触らない。これならいいだろ? 減るもんじゃあるまいし、それで何もなかったことにしてやるって言ってんだぜ。な、章」
「ああ。うん」
返事をしたが、相変わらず章は二階から降りてこない。LINEをしているのだろうか、階下からは分からないが、ずっと携帯を触っているようだ。
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