夏休みが来た 12

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「ただ……分かってもらえるかどうかは分かんない……けど」  以前、礼は緊張の面持ちだ。 「大丈夫だよ、礼ちゃん」  不安そうな礼に何か声をかけたい。  その一心で知己は後部座席から助手席のヘッドレスト辺りに手をかけ、身を乗り出した。  その瞬間に、礼がびくりと身を震わせ 「Don't touch me!(触らないで)」  反射的に叫んでいた。 「あ……あの……」  叫ばれた知己も、びくっと手を引っ込める。もちろん、礼に触るつもりなんて微塵もなかったが、将之も 「先輩! お触り、めっ!」  アダルトなのか、幼児向けなのか、よく分からないお叱り言葉を発していた。 (忘れていた……。俺は礼ちゃんにとって「もいきー」な存在)  困る知己を見て、礼も眉間に皺を寄せ、同じように困っていた。 「ご、ごめんなさい。私の了見が狭いのは分かっているの。でも、どうしても無理……」 「そっか」  仕方ない。  何もかも上手くいくわけがない。  とりあえず今は、礼と中位父の再会が上手くいくことを祈ろう。 「だって……、想像してよ。  将之お兄さんと知己お兄さんが、私を送ったこの後、空港近場のホテルにシケこんで、いちゃいちゃするんだとか想像しちゃうと……マっジで無理無理無理無理無理無理無理無理……」  シケこむ……どこで仕入れた日本語だろうか? 「いや、何? その生々しい想像……。ちょっと頼むからやめてくれ」  どっと汗が吹き出す知己の話を、多分、礼は聞いていない。  隣の席の将之が 「……あり寄りのアリだな」  ぽそっと呟くのが聞こえ、礼に聞かれたら大変だと慌ててもう一回座席を蹴とばした。 「いや、もう、ほんとソレ、無理無理無理無理無理無理無理無理無理……」  そして「無理」の言葉に合わせて、礼も親指を付けたり離したりする謎のポーズを始めた。 (ああ、どこまでもこの二人は似た者兄妹……!)
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