夏休みが来た 12

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(ちょっと腕、だるい……かも)  と思っていると、礼が 「……じゃあ、次は私の番ね」  と耳を知己の胸に当てて言う。  知己の心音を聴いているかのようだ。 「?」 「手短に……一回しか言わないからね」 (さっきの「かまってくれてありがとう」でおしまいだったんじゃ……?)  礼の真意が分からずに、まさにお手上げのポーズで知己は首を傾げた。  以前、横ではうるさく将之が「礼ちゃーん」と両手を広げて待っている。 「お兄さん達……ちゃんと生み出している……と思ったの」 「え?」  突然の話に、知己が戸惑った。察するに、駐車場で言いかけた話の続きかと思われた。 「だって、『幸せ』なんでしょ。毎日、朝一に会って夜ラスまで会って幸せなんでしょ?」  やや頬を赤くして、片手で知己の背を掴み、片手でネックレスを握りしめながら言う。 「子孫繁栄という形じゃなくても、二人で居ることで『幸せ』をのなら。その代わりは誰にもできずに、二人でしか紡ぎだせない時間をってことだよね?」  あれほど、いや今現在も断固拒絶されているが、礼なりに「生み出している」と認めてくれたのか。 「あ、……礼たん」  あまりのことに感動して、知己は思わず噛んでしまった。 「……んふっ! うふふふふふっ。普通、そこで噛む?」  礼が知己の「礼たん」呼びに頬を染め、こらえきれずに笑い出した。  ずっと横で、かまってくれない愛犬か何かを呼び続ける将之が、知己の「礼たん」呼びを聞きつけて、 「図に乗らないでくださいよ、先輩」  とまたもや親指を付けたり離したりの謎のポーズに切り替えいた。 (ちょっと……噛んだだけなのに。すごい言われよう)
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