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(ちょっと腕、だるい……かも)
と思っていると、礼が
「……じゃあ、次は私の番ね」
と耳を知己の胸に当てて言う。
知己の心音を聴いているかのようだ。
「?」
「手短に……一回しか言わないからね」
(さっきの「かまってくれてありがとう」でおしまいだったんじゃ……?)
礼の真意が分からずに、まさにお手上げのポーズで知己は首を傾げた。
以前、横ではうるさく将之が「礼ちゃーん」と両手を広げて待っている。
「お兄さん達……ちゃんと生み出している……と思ったの」
「え?」
突然の話に、知己が戸惑った。察するに、駐車場で言いかけた話の続きかと思われた。
「だって、『幸せ』なんでしょ。毎日、朝一に会って夜ラスまで会って幸せなんでしょ?」
やや頬を赤くして、片手で知己の背を掴み、片手でネックレスを握りしめながら言う。
「子孫繁栄という形じゃなくても、二人で居ることで『幸せ』を生み出しているのなら。その代わりは誰にもできずに、二人でしか紡ぎだせない時間を生み出しているってことだよね?」
あれほど、いや今現在も断固拒絶されているが、礼なりに「生み出している」と認めてくれたのか。
「あ、……礼たん」
あまりのことに感動して、知己は思わず噛んでしまった。
「……んふっ! うふふふふふっ。普通、そこで噛む?」
礼が知己の「礼たん」呼びに頬を染め、こらえきれずに笑い出した。
ずっと横で、かまってくれない愛犬か何かを呼び続ける将之が、知己の「礼たん」呼びを聞きつけて、
「図に乗らないでくださいよ、先輩」
とまたもや親指を付けたり離したりの謎のポーズに切り替えいた。
(ちょっと……噛んだだけなのに。すごい言われよう)
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