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空港特有の優しいチャイムが鳴り、続いてアナウンスが流れる。
「あ、そろそろ行かなくちゃ」
礼が知己を解放し、何事もなかったかのように携帯を取り出した。
チケットのQRコードを表示させ、くるりと二人に背を向けた。
「礼ちゃん、元気でね!」
やっと腕を下ろした知己が縋るかのように声をかけた。
「サプライズでもいいから、また来てね!」
将之も続いた。
「もちろんよ」
礼が半身ねじって、二人に手を振る。
「将之お兄さん、知己お義兄さん。See you again!」
礼の姿がゲートの中に消えていく。
もう振り返ることもない。
遠くなっていく礼の姿を見送りながら、知己は
「……今、ちょっと『おにいさん』のニュアンス違わなかった?」
と将之に訊いた。
だが将之の方は
「気のせいでは? 僕には分かりませんでしたが」
微妙な違いの分からない男だった。
―夏休みが来た・了―
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