過ぎ去った夏 1

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「僕はね、朝一とか夜の最後までとかじゃなく……片時も先輩と離れていたくないんですよ」 (あ。思ってたのと違った)  知己はほっとした。 「昼間は仕事で仕方ないけど、夜はずっと一緒に居たいなって思っているんです。だから、先輩の言っている内容と、ほぼ同じじゃないですか?」  自分の『朝一会って夜の最後まで会いたい』よりも将之が軽い気持ちだったら、どうしようと思っていた。 (むしろ、将之の方が重かった気がする) 「だのに一週間もお預け食らって……据え膳、目の前に一週間もお預けですよ」 「俺は『据え膳』になどなった覚えはない」  なんだろう。  今度も些細な言葉にカチンと来る。 「例えですよ」 「分かるけど、全然、例えになってない」  とにかく、この男の物言いが腹立たしい。すべてが気に障る。 「とにかく、ホテルも車もなし。いいな!」  将之の携帯をダッシュボードの所定位置に置き、知己は釘を刺した。  携帯の画面は電源を落とされて真っ黒。意味をなしていない。  将之はおもむろに車を出した。 「……狡いなぁ」 「は?」 「礼ちゃんが帰るまでって言ったくせに。が約束守らなくていいんですかぁ?」  揶揄った言い方をする。 「うるさいな。時代は『ワークライフバランス』だぞ」 「ん?」 「つまり、ワークとライフは別モノで考えろってことだろ?」 「何か……違う気がします」  将之が首を捻る。 「とにかく、礼ちゃんと別れた直後に無理! 家に帰ろう! 直帰! な!」  知己は強引に押し切った。 「はい、はい」  仕方なさそうに将之は笑うと、ウィンカーを上げ、高速道路に進路を取った。
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