過ぎ去った夏 1

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「言っとくけど、俺は、お前に裏切られた数々の恨み、忘れてないからな」 「裏切り?」  将之が目を丸くした。どうやら、本人は心当たりが一切ないらしい。 「もしかして、あれだけの掌返しを『忘れた』とでもいうのか」 「はあ。すみません。過去の嫌な思い出はできるだけ早く消去するタイプなんで」 「ふざけんな。協力すると言っておきながら、土壇場で礼ちゃんを庇いやがったぞ」  礼が将之の弁護に逃げて知己を避けるようになったり、肉親には手厳しい礼の性格を発動していなかったら。  知己は今、こんな気持ちで礼を見送ることはできなかっただろう。 「他にも地雷回避で、俺ばかり酷い目に遭わせやがって」  将之からいたずらしたのに、礼に目撃されて、知己ばかり加齢臭疑惑にもいきー扱い。忘れがたい思い出を刻んだ。 「いくら溺愛の妹と言っても、こうも何回も掌返されたんじゃ、お前のことヒトとしてどうなんだって疑いたくもなる」  とは言え、この男の所業の大半は「人としてどうなんだ?」な行動が多いが。 (これも中位家の血か……?)  基本、礼も将之も自分の気持ちが最優先。  悪く言えば、やりたい放題。 (溺愛の妹……。最優先……)  知己の胸の奥に黒いモヤモヤとした塊がある。 (そっか。それで、こんなに将之の言う通りにしたくないんだ)  知己は、やっとその正体に気付いた。 「確認させてもらう。俺は、お前の何だ?」 「は?」  突然の知己の質問。将之は意味が分からない。 (それとこの先輩のヤサグレ状態。何の関係があるのだろうか?)  将之はキョトンとしたまま、首を傾げた。 「礼ちゃんがお前の天使なら、俺はお前の何なんだ?」 「……え」
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