過ぎ去った夏 1

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「お前、また! そんな気障なことを……!」  慌てて引っ込めようとする知己の左手は、将之ががっしりと掴んで離さなかった。 「こういうのも、たまにはいいでしょ?」  知己の反応は想定内だったのだろう。将之はにやりと口角上げるだけの悪い笑顔を見せた。  そんな顔で微笑まれても 「よくない!」  としか言いようがない。 「それ、即答しますか?」  将之は呆れた。  知己がジタバタと暴れてみたものの、将之も意地になっていて握られた手は放してくれそうもなかった。 (それなら、こっちから)  と知己は正面から顔を近づけた。 「!」  将之は驚いて目を見開いたが、かまわずに右手を将之の頬に添え、わずかに角度を変えるとすかさず唇を重ねた。  知己の行動に驚いた将之が、珍しく固まっている。 「……仕返しだ。お前、変に固まるな」  気まずそうに知己が言うと 「絶対に……頭突きされると思いました」  固まったまま、唇だけ動かして将之が答えた。 「そんなことはしない」 「最近、先輩のDVが酷かったので」 「DV?!」 「僕が近付くと相撲の張り手の練習し始めたり、礼ちゃん送るときに蹴ったり」 「お前が良からぬことしか言わないからだろ?」 「……こういう仕返しなら、いつでも歓迎です」  喋りながら徐々にフリーズから解けた将之が、突然、知己の膝と脇の下に腕を差し込み、知己を抱え上げた。 「な、なにをする気だ!」  一気に目線が高くなり、知己は狼狽えた。 「もちろん、ナニをする気です。でも、ここ(ソファ)じゃ、先輩がすぐ礼ちゃんの話をしそうなので、ベッドに連れて行こうかと」 「余計な気遣いだ!」  言われて反射で応えたが 「じゃあ、ここでしていいんですか?」 「う……」  それはやはり嫌だ。 「……ごめん。やっぱベッドに連れていけ」  知己は、しおしおと腕を将之の肩に回した。 「了解ー!」  結果として、知己からのベッドのお誘いをもらった。
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