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過ぎ去った夏 3
★
いくら空調を効かせていても、真昼間から男同士がガッツリ四つ、密に抱き合えば、それなりに汗だくになる。
汗どころか自分と将之の色んな飛沫を浴びた知己は、シャワーで洗い流してさっぱりした気分になっていた。
「腰、大丈夫ですか?」
将之が例のブルマンとやらを濃いめに淹れて、氷を落としてアイスコーヒー仕立てで持ってきた。
「うん……、まあ、それなりに」
後ろからされるのはなんとなく嫌いだから、多少窮屈な姿勢になるのは仕方ない。
だからといって小一時間、その窮屈な姿勢を強いられるのは大変だ。そうでなくても、大変なものを受け入れているのに。本来、受け入れるべき場所ではない所に。
一週間ぶりと久しぶりなのも良くなかった。通常の三倍は、将之が元気で長持ちだったのだ。最後は、知己がいつものように意識半分もっていかれた形で終わった。
(そっか……、よく考えたらいつも通りか)
リビングのソファにそっと横になった。
体を伸ばして、鈍い痛みを伝える腰に負担がかからないようにした。
(今日、休暇取ってて良かった……)
しみじみ思う。
月曜。
礼が訪れて、ちょうど一週間。
はじめから礼を空港まで送るつもりだったので、早めに休暇申請を出していた。それは将之も同じで、礼が来た翌日には申請を済ませていたようだ。
「コーヒー、作り過ぎちゃった。先輩、おかわり要ります?」
「……要る」
撃沈したようにピクリとも動かなくなった知己の代わりに、将之が空いたグラスを取りに来た。その時、
♪ピロン♪
ローテーブルに放り出していた知己の携帯がLIN○着信音を発した。
表示は「あやや」。
博物館見学後に交わした「中位礼」との連絡方法だった。
アプリ画面を開く直前に知己は反射的に時刻を確認した。
14時を少し回った頃。時間的に……父親と会った直後くらいかと思われた。
元々、アメリカに帰る飛行機は夜の便。その予定は変えてないと言っていた。
今は、羽田で時間をつぶしている頃だ。
表示を見た将之が
「えー?! また、先輩にだけ? 酷いな、礼ちゃん」
すっかり知己お兄さんに懐いてしまった妹の薄情な仕打ちを嘆いた。
「妬くな。すべては、お前が面倒臭いのが原因だ」
あんなにも仲良い兄妹なのに、それ故礼は本当に話したいことは将之に秘密にする。
「僕、そんなに面倒じゃないですよ」
言われた本人は不愉快丸出しで、氷が溶けかけたグラスを引き取り、キッチンへとUターンした。
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