過ぎ去った夏 3

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 今回も心配こじらせて面倒になりそうだから将之には秘密。だけど、父との再会の報告はしたい。だから、知己に連絡……、そんなとこだろうと予測した。 「……」 「礼ちゃんは、なんと?」 「……何でもない」 「は?」 「何でもないとか、ないでしょ? 何故隠すんです?」 「いや、本当になんでもないから」  将之にこんな言い方したら、それは「携帯を奪ってください」と言っているようなもんだ。  だが、知己は誤魔化すのがすこぶる下手だった。 「見せてください」  案の定、携帯を取り上げられた。 「やめろ! 見るな!」  とは言え、そうでなくても身長差があるのに、腰のふんばり効かない知己に勝ち目は0.0001%もない。 「どれどれ」  将之がいつかのお返しに、知己を押さえつけたまま携帯の画面を読んだ。 『まだ、羽田のラウンジに居ます。  父は用件だけ済ますとさっさと帰りました。  後、5年、学費は出してくれるそうです』 「あ、良かった」  素直に喜ぶ将之だが、知己は (問題は、その後だ)  と将之の読み上げるのを複雑な気持ちで聞いていた。 『ところで、ちょっと聞きたいことがあります。  確か知己お兄さんは、博物館で会った綺麗な女性のことを好きでしたよね?  だのに将之お兄さんと付き合っているんですか?  そこんとこハッキリさせてください』 「ほほう……。これは……」  自分に来なかった理由に納得し、将之は真っ黒い笑顔を見せた。  携帯を指先でプラプラと摘まんで 「僕もぜひ聞きたいな。  これには、なんて返信するんです?」  ニヤニヤと訊いてきた。 「そうだな……」  知己は少し考えて 「卿子さんは俺の天使だが、将之は俺の宝物だ……と返信しよう」 「え? ずるいなー、それ。僕のパクリじゃないですか」 「お前のと一緒だ」 「僕は誤魔化してないんですよ? 本気で言ったのに。礼ちゃんは妹で、先輩は……ねえ、聞いてます?」  将之が何かごちゃごちゃ言っているが、聞かないふりして礼に返信を打っていた。 『今度、礼ちゃんが遊びに来た時に詳しく話すよ』  と。 4c0093c0-d236-4f84-8d20-b9634b1dfd76           ―過ぎ去った夏・了―
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