文化祭バトル勃発 1

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 章は丁寧に、落ちたものを一つ一つを手に取ってはコンテナに戻した。 「塩に、これは除湿剤。ミ……ミョウバンって何? ホウ酸。それに弁当のアルミカップに、綿とエタノール?」  相変わらず家庭で見かけるものばかりを使う。 「一体、明日は何の実験すんの?」  と章が訊いた。 「炎色反応の実験だ」  三人同時に、いつもの「何、それ? 美味しい?」の顔をした。 「花火の色に黄色とか緑とか紫とかあるだろ。あれを作る実験だ」 「へえ。こんなもので、それができるの?」  章は好奇心に満ちた目で、コンテナの中身を見つめた。 「物質に含まれる金属が発火することで発色するんだ。綺麗だぞ」 「面白ーい。明日、学校来るの楽しみ」 「何、言ってんだ。明日はお前ら、化学の授業はないだろ?」 「あ。そうだったー」  楽しそうに笑う章とは逆に、敦は 「けっ」  と、面白くなさそうにそっぽを向いた。 「だけど、女装ミスコンって言っても……」  俊也が話しかけた。 (あ、「女装」に限定された……)  知己の卿子ミスコン出場の夢は、儚くも勝手に見て、勝手に消えて行った。 「女装似合う男子なんて敦か章くらいだろ? コンテストになるのか?」 「別に似合わなくてもいいんだよ。面白ければ。それに僕は、出ないよ」  章は教師用机にコンテナを置くと、俊也達の机に戻ってきた。 「え? マジ? なんで?」 「だって裏方に回る方が面白そうじゃん」  章らしいといえば章らしい発言だ。  それにつられ 「だったら、俺も裏方に回ろうかな?」  と俊也が言ったが 「俊ちゃんは出なよ」  章が勧める。 「なんで、だよ」 「面白そうだから」 「お前、一回シメる」  瞬間、俊也が席を立って章の居る方向に回り込んだ。  だが章がじっとしている訳がない。 「あは、あははははは!」  俊也の癇に障る笑顔で実験用机の周りを走り、逃げ出した。
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