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(あー、また始まった……!)
理科室内をせわしなくバタバタと鬼ごっこのように走り回る俊也と章に、知己が止めるよりも先に、敦が
「とーにーかーく!」
と二人を制した。
「ミスコン、やろうぜ! まあ、俺の優勝は決まったようなもんだが……」
「敦ちゃん、自信あるんだね」
「やった経験はないが、多分、俺の女装は凄いぞ。センターは、前田の敦ちゃんか梅木の敦ちゃんかってくらいだ」
ふふんと鼻で笑って、腰に手を当て勝負始まる前から勝ち誇っているようだが、俊也達にはいまいちよく分からない例えだったようだ。
「敦がなんか言ってるが。章、意味が分かるか?」
俊也が真剣な顔で訊いてきた。
敦と長い付き合いの章も、さすがにピンとこなかったらしい。
「うーん……。『ミスコンの総選挙で1位取っちゃうぞ』ってことじゃないかな?」
「そうなのか? 敦」
訊かれる方が恥ずかしい。
「……(くそ。滑ったか……)」
敦が無言でいると、章は別の解釈をし始めた。
「もしくは『腹黒先生のことは嫌いになっても、俺のことは嫌いにならないでください!』的な?」
「さすが……敦だな」
「……も、言わない……。二度と言わない……」
章と俊也の話に、地味に敦がダメージを蓄積させていた。
「……つー訳で!」
一旦、謎の「センター・敦ちゃん」発言をなかったことにし、視線を知己に移した。
「先生、文化祭の女装ミスコンで勝負だ」
「棄権する」
知己は即答した。
「この際、どっちが上か、ここではっきりさせよう」
敦が詰め寄る。
(何の上だろう? 女装のデキの上下なのだろうか?)
俊也がまたもや答えの見えない迷宮に入り込んでいた。
知己は
「お前の言う上の意味はよく分からないが、俺は『下』でいい」
と慎ましく答えたが、敦は追撃の手を緩めない。
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