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その頃知己は、理科室でクロードと卿子と三人で衣装を合わせていた。
「女装ですからね、華奢で中性的なイメージで勝負するとなったら、あちらは曲がりなりにもティーンエイジャー。こちらは三十路手前。知己に勝ち目はありません」
「……う」
知己と同じ年の卿子が、思わず低く唸った。
「だから、こちらは大人の色気で迫りましょう」
クロードは、持ち込んでいた海外旅行用の大きなトランクを開けた。
(楽しそうだな、クロード)
いくつか目星を付けて持ってきているようだ。
嬉しそうに見比べて、
「こちら、なんかどうですか?」
襟の詰まった高質感あるサテン生地のドレスを勧められた。
「あえて露出を押さえる。色気に関しては知己の方に分がありますから。むしろ隠す方が滲み出るもんですよ。ほら、着てみてください」
(今の、絶対に褒めてないな……)
知己はからかわれていると薄々感じつつ、準備室で着替えた。
「わあ、似合う! ミステリアスな雰囲気がいいですね。平野先生は身長もあるからロング丈も似合いますよ。ブーツが素敵」
卿子がめちゃくちゃ気に入ったので、衣装はあっさりと決まった。
「しかし、クロード先生は色々なものをお持ちで」
卿子が広げられたトランクの中身に感心している。
「私の知り合いに、大柄な人が多いんですよ」
「そっかぁ。クロード先生にも協力してもらって、良かったですね、平野先生」
「はあ、そうですね」
知己は曖昧な返事をした。
クロードの母はカナダ人だ。その為クロードの周りには、外国人の大柄な女性が多いのだと卿子は勝手に解釈したようだが、知己は
(ゲイの知り合いのことだな)
と、察した。
「元々ゴスロリ衣装の似合う先生でしたから、ね」
卿子の言葉に、2年前門脇プロデュースの運動会の仮装競争を思い出す。
(懐かしくもなんともない。嫌な思い出だ)
本当に、よく考えたら何の因果でまたもやこんなことになっているのか。
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