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「あ、それと確か『平野先生は手を出せないけど、こっちは出せる』とか変な相談をしていて。私に気付いたら『聞かれちゃった?』とか言っているし……それで私、怖くなって逃げなきゃって思ったんです」
不安や恐怖から解き放たれて、卿子は堰切ったように喋りだした。
「坪根先生、落ち着いて。まずは、須々木と吹山の話を聞きます。そのあとでお話を聞きますから」
「……はい」
悔しそうに口を噤む卿子だったが、それは知己を信頼してのことである。卿子の気持ちを感じ、知己は俄然この場を冷静に、かつ正しく収めようと思った。
「それから?」
知己は、俊也達に向き直った。
「え? それからって……?」
「それだけじゃないだろ? それだけで、きょ……坪根先生の服がこんなに汚れているんだ。その後、何があった?」
建物に入るときに、卿子が服をパタパタとはたいてあらかたの土は落としたものの、美しいペパーミントグリーンは、いまやくすんだ薄緑である。
「えーっと……どうしたんだっけ?」
俊也が章に救いを求めるの視線を送ったが、章は目を反らした。
「なんだ、須々木。自分で言えないことをしたのか? だったら坪根先生に聞くぞ。それでいいか?」
卿子に聞いたことを「真実」と受け取って良いかの確認だった。
章の助けは望めそうもない。それで俊也が
「あ、いや……。頭突きされたんで、びっくりして手を離したら、この先生が勝手に転んだんだ」
雑な説明をした。
「違います! 私、叩かれたんです!」
「ああ、この頬が赤いの、その所為なんですね」
知己はすかさず携帯で卿子の頬の写真を撮った。そして、俊也に向かい
「お前の頭突きされた所も写真に撮りたいが、どこだ?」
「えーっと……たぶん、ここら辺……かな?」
顎のあたりを指した。
同じように写真に撮って見たものの、さっぱり痕が分からない。
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