文化祭バトル勃発 5

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「顔は怖いけど、意外と人望あるよね、俊ちゃん」 「お前は本当に余計なことしか言わないな」  章を一睨みすると、俊也は呼びかけに集まったメンツに投票用紙の原稿を渡し印刷室に向かわせた。 「? 俊ちゃんは行かないの?」 「おう」 「なんで?」 「なんでって……。その……なんだ、働き方改革だ。人に任せられるところは任せる。仕事分担ってヤツだ」 「敦ちゃんみたいなこと言わないの。それで俊ちゃんが働かなくなるのって、『仕事分担』の誤用じゃないの?」  章の眉間に皺が寄る。 「うるさいな。俺は1秒たりともここを離れる訳にはいかないんだよ」 「だ・か・ら、なんでだよ?」  執拗な章の質問に、俊也が困り果てた。 「……俺が居ない間に、ラノさんが来たら困るからだ」  結局、誤魔化しきれないと諦めて、正直に答えてしまった。  この間から俊也が乱発している「ラノさん」が、また出た。 「その『ラノさん』って誰?」 「しゅ……宗教学の先生だ」  言った瞬間、俊也の頬に赤みがさした。  章に見られまいと慌ててうつむいて顔を伏せたが、心なしか、目も潤んでいるように見えた。 「俺は……この日の為に生きてきた」 「大げさだねー。そこまでコンテストに入れ込んでんの?」 「いや、俺がいれこんでいるのは、コンテストではなく……」 「心配だな。文化祭終わったら、抜け殻みたいにならないでよ。そういうの、敦ちゃんだけで十分だからね」 「ならない。俺、3年生で『宗教学』取るから」 「あんな眠そう選択教科を? そりゃレポート書くだけで単位出るという救済教科だという噂あるけどさ」  大学入学共通テストを受ける生徒が少ない八旗高校は、卒業に必要な単位だけを取得できる教科が用意されていた。そのひとつが宗教学だ。 「あ、俊ちゃんは、そもそも授業を聞かないんだから、何を選んでも関係ないか」 「そんなことはない。今度ばかりは聞くぞ」  ふすーっと鼻息荒く、学生ならやって当たり前のことをなぜか誇らしげに語る俊也を理解できないが 「うーん。まあ……いいことだとは思うよ。頑張れる何かがあるのって、励みになるもんね」  なんだか聞くのも面倒になったので、章はいい話風にまとめようとした。
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