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「そだ。あんた、さ」
「何よ」
敦が突然、美羽に話しかけた。
「ミス慶秀大だったよな。あんたなら特別席で見学させてやってもいいよ」
「え? 何、それ」
「一般の見学者は体育館フロアで見るけど、あんただったらゲストとして申し分ない。体育館ステージ脇に特別席を今から作らせる。そこで見学させてやるよ」
「なんか上から目線がむかつく」
先ほどよりは幾分好意的な物言いになったが、敦の態度を素直に喜べない。
「あんたの友達も……ステージ近くの席を用意させる。悪い話じゃないと思うけど?」
(は、はーん。さては……)
章が敦の思惑に気付いた。
(蓮様は、このお姉ちゃんのボディガードだもんな。お姉ちゃんの傍から離れない蓮様に、自分のビューちフォーな姿を近くで見てもらいたいんだな)
「な、なんだよ」
敦が章の意味ありげな視線に怯んでいると
(敦ちゃん、可愛いとこあるんだから……)
章はニンマリと笑顔で応えた。
「いいじゃん、美羽。面白そうだし、特等席で見せてもらおうよ」
大奈が喜ぶと、菊池も
「賛成!」
と手を挙げて同意した。やや遅れて門脇も
「……賛成」
と言った。
(近い所で、先生を見られる……。最高じゃねえか!)
そこには大いなる下心があったが、それは美羽には分からなかった。
(え? 門脇君も?)
夏に敦達とのやり取りを経験して、その人となりはなんとなく理解していた。決して純粋な善意で言っていないだろうと推測できるが。
(用心深い門脇君がOKなら、心配はいらないかな?)
大奈達も賛成している。
敦の態度の急変は怪しいが、断る理由もない。
(ステージ脇で座って見るくらいなら)
「確かに面白そうだし、特等席で見れるのはいいかもね」
と承諾した。
章も体育館脇の時計を見た。
「じゃあ、そろそろ僕も行くね。司会の仕事しなくっちゃ」
ミスコン開催時間が迫っている。
「ああ。手伝ってくれてありがとな、章」
「どういたしましてー」
章は笑顔で俊也に手を振った。
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