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なんとも殺伐とした雰囲気に
「お、おい。章……」
舞台袖から申し訳なさそうに知己が章に声をかける。
「あ、すみません。なんかヤーな雰囲気になっちゃって」
ペコリと爽やかな笑顔で頭を下げたが、目は決して笑っていない。
(ヤーな雰囲気にしたのは、お前らだけど、な。僕は悪くない)
と思っているのだろう。
それでも空気を考えて
「教師も生徒も一緒になっての八旗高校文化祭、どうぞ温かく見守ってくださいねー!」
明るく場をとりなした。
ヤジを飛ばした男たちは、章の言葉と周りの視線に居づらくなっていたが、何せ大盛況の体育館二階席。観やすい分、狭くて移動しにくい。
余儀なく、そこに居続けることになっていた。
「うーん。章君って分かりにくいけど、つくづくいい子ですよね」
ぽそりとクロードが言う。
だが、知己には聞こえていなかった。
「やっぱりもうすぐ三十路のおっさんは、若人の祭典に出るべきではなかったか……」
と、ネガ思想に憑りつかれていたからだ。
ついぞ二ヶ月ほど前に、礼や将之から「まだ、ギリ二十代」だのなんだの言われたことを思い出していた。ネガティブがネガティブを呼び、悲しいネガティブ思想の連鎖が始まっていた。
「知己、大丈夫です。生きろ、そなたはめちゃくちゃ美しい……です」
クロードが、よく分からない激励を飛ばしてくれた。
これまでの出演者のアピールタイムを見て自信喪失の上に、悪意ある野次に嘲笑。クロードの言葉は、心に沁み込むには至らず、依然として視線は不安そうに空をさまよっていた。
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