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「練習通りにしたら大丈夫です。平野先生。私達を信じて」
現金なもので、なぜか卿子の激励は耳に入った。
(卿子さん……。クロード……)
女装、歩き方、動きの確認、一週間ものあいだ二人には練習にも付き合ってもらった。
(そうだ。二人にはいっぱい協力してもらったじゃないか。こんなところで俺が怖気づいてどうする)
知己は勇気を絞り出した。
「卿……坪根先生。クロード。俺、行きます」
「一緒に行きましょう」
「え……?」
卿子の言葉のあやだとは分かっている。
「いっぱい練習したんだから、大丈夫です。できます。一番、綺麗なのは平野先生です!」
感極まって知己の手をぎゅうっと握りしめたというのも分かっている。
おそらく、元々、男として認識されてない上に今日は女装までしている。卿子はうっかり知己の性別を忘れて、手を握って励ましてくれているだけなのだ。
分かっていても、どうしても知己の頬にかぁっと朱がさしてしまう。
(卿子さん……!)
時・場所・場合を忘れてうっとりと卿子しか見えぬ事態を招いてしまったが、次に卿子が
「そして、敦君を更生させましょう」
の言葉に、知己は目が覚めた。
(そうだ。敦のずる休みをやめさせるんだった……!)
迷いを捨てた。
三人は自然と円陣を組んでいた。
「打倒! 自主的週休三日!」
「「打倒!! 自主的週休三日!!」」
一部の者にしか分からない合言葉を三人で唱えた後、弾けるように円陣を解き、知己は颯爽と舞台袖を出ていった。
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