文化祭バトル勃発 6

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「気を取り直していっきまーす! エントリーナンバー5番。2年3組担任・平野知己先生」  章の言葉の直後に、突然の暗転。  右の舞台袖に移動したクロードが照明をすべて落とした。  スポットライトだけが、ステージ中央の知己を映し出す。  知己は薄い白いヴェールをかぶっていた。  跪き、祈りのポーズをとっていた。  知己の後方、ステージの左端に、キーボードと卿子の姿が暗闇の中にあった。  ゆっくりと静かに卿子は演奏し始めた。 「あ、……生演奏。坪根先生、ピアノ弾けるんだ」  美羽が呟いた。 「パッヘルベルのカノンだわ」  静かで繊細な音色が重なり、やがてふくよかなメロディへと変化するのに合わせて、知己はゆっくりと立ち上がった。  俊也が勘違いした修道服のような襟の詰まった黒いドレスは、知己が嫌がるのを承知の上で卿子が 「パットをドレスに縫い付けちゃいましたー!」  とゴリ押しに改造していた。  縫い付けてあるものは、どうしようもない。知己は控室で泣く泣く着る羽目になった。だが、それが功を奏し、女性らしいシルエットになっていた。  マキシ丈のスカートからショートブーツがのぞいていた。  大きめのヘアバンドでまとめた漆黒の長髪を緩めの三つ編みにしている。  おっさん教師の不細工な女装……?  おっさん?  おっさん?  ……どこが、おっさん……?  それまで爆笑のネタ三昧だった体育館では、初めての厳かな雰囲気。誰もが息を飲み、知己の動きを静かに見守った。 「あれは? まさか……、…………………………ラノさん……?」  俊也が呟く。 「ちょっと待て。今、これ、先生の出し物の筈だよな。え? 女装ミスコンに、なんでラノさんが? え? あれ?」  衝撃の再会に、俊也の理解がついて行かないようだ。  曲のサビに入った所で、クロードがギターを持ってステージ右から登場し、演奏に加わった。  途端に、シックな曲想がガラリと変わった。 「ロック・カノンだわ!」  アップテンポに変わったのと同時に、知己がヴェールを取り去った。  その瞬間に 「ラノさーーーん!?」  ロック・カノンが響く体育館に、俊也の叫びもこだました。 「……?(ラノさん? ああ、俊也の会いたいって言ってた人か)」  体育館のどこかにいるのだろう。  俊也の視線の先をそれとなく追ってみたが、体育館前方は人が多くてよく分からない。男性ばかりで、それらしき女性は居ないようだ。 (まあ、いっか。後で俊也に聞いてみよう)  ステージ下を見渡せるほど、知己の気持ちに余裕が出ていた。
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