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「あ……」
それまで黙って美羽達の攻防を見ていた門脇が、不意に声を上げた。
「?」
体育館前の混雑する投票所に、先ほど知己に罵声を浴びせた者を見つけたのだ。
明るい所で見ると、20代前半の若者。生徒の兄弟関係者だろうと思われた。
まさにロックオン。
獲物を見つけた肉食獣と化した門脇が動いた。
「御前崎。菊池たちとココに居ろ」
「門脇君は?」
「俺は、あいつらをちょっと絞めてくる」
「ちょっと待て! 門脇、ここで問題を起こすな」
慌てて知己が門脇の手を掴んだ。
「あ……?」
ギロリと凄みを効かせた目で、掴まれた知己の手をまず睨んだ。その後、刺々しい雰囲気のまま知己に視線を移す。
「なんでだよ?」
よほど腹に据えかねているのだろう。一発……なんなら5発くらい殴らないと気が済まない。
ちなみに門脇は一発でも十分殺傷能力が高い。
春先には俊也が、夏には美羽を襲うストーカーが、その一発で意識が飛んでいる。
それを一人5発は入れないと気が済まないほど、門脇は煮えくり返っていた。
「問題起こしたら、文化祭が中止になっちゃうだろ。俺のことはいいから」
懸命に知己は門脇を宥めた。
「ヤジ飛ばされただけで、何をされたってわけじゃないから」
「……先生にヤジ飛ばしたのが悪いっての」
「アピールタイムに何か言われたんじゃない。アピールに支障はなかったんだ。あれでいて、マナーは守っているから。やめてくれ」
「……ちっ!」
ぷいっと門脇は顔を背けた。
(門脇……。頼むから問題を起こさないでくれよ……)
だが、知己は気付かなかった。
門脇が眉間に皺寄せて睨むのは、殴りたい思いを抱えているのと同時に、知己に手を掴まれてニヤけそうになるのを必死で堪えているのからだ……とは。
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