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「ん……?」
門脇の睨む相手を見止め、俊也も声を出した。
「どうしたの、俊ちゃん」
「蓮様のロックオンしてる人。俺、どこかで……見たことある気がする」
「何? その、めっちゃ中途半端な記憶」
「うーん。どこでだっけ? もしかして、うちに来てた……のか? 親父のとこに来てたような?」
腕を組んで必死で思い出そうとしているが、はっきりとは思い出せないようだ。
俊也の発言に、章の方が食いついた。
「俊ちゃんのお父さんに会いにって……。じゃあ、梅ノ木グループ傘下のレストラン部門関係者ってこと?」
「いや。分からん。うろ覚えもいいとこだし」
「俊ちゃん、記憶力ないもんねー」
「うん。そうだな。あの、蓮様……!」
おもむろに俊也が門脇を真剣な顔で呼んだ。
「蓮様?!」
「なんで、門脇。蓮様なんて呼ばれてんだ?」
美羽は夏休みに知っていたが、近藤大奈と菊池周人が驚きの声を上げた。
「蓮様が締めるべき相手は、章です。ぜひ、本気で絞めちゃってください。きっと章も本望です」
周りが驚き、どん引く空気を気にせずに、俊也は不穏なことを口にした。
「俊ちゃん、卑劣な手段を。僕が蓮様になら絞められてもいいってのを知ってて。避けられない攻撃。ああ、どうしよう」
赤くなった頬に両手を沿え、くねくねと妙な動きをする章に
「うっわー、どMだ」
「キっっっっっっっっっっっっモ!」
美羽たちが、さらにどどんと引いた。
「……って、ふざけている場合じゃないな」
章が呟くと
(本気にしか見えなかった)
その場にいる誰もが思っていた。
「あいつらが梅ノ木グループ傘下の者なら、先生に罵声を浴びせた裏には敦ちゃんが居るってことかな」
「え?」
「例年しょぼい八旗の文化祭に、普段の10倍の人数ってのも変だった。もしかするとほとんどがサクラなのかも」
「それって、敦の差し金か?」
俊也が訊くと、知己が
「まさか。敦は誰よりも不正を嫌う男だろ?」
章に確認するように言った。
「甘いよ、先生」
「え? 違うのか?」
「敦ちゃんはズルは大嫌いだけど、それ以上に負けるのはもっと嫌いなんだ」
(もしかして、俺は将之以上の面倒なヤツと関わっているのかもしれないな……)
女装姿で、知己は長い睫毛を伏せた。
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