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「256票、我らが2年3組担任・平野先生ー!」
今度はスポットライトが知己にとまった。
敦のようなクォリティ高いステップなど一つもなかったが、誰もが知っている曲のロック調。それに合わせての優雅な雰囲気にヴェールを使った効果的な動きが強く印象に残った。
大健闘だ。
わぁっと歓声が上がり、体育館中から拍手も沸き起こった。
もちろん、ステージ端の特別席の美羽達も大喜びだ。
「凄いですねー、平野先生。全校生徒298人の生徒数でこの票数はマジ快挙ですよ」
章が褒めるが
「あ、うん……」
知己は、曖昧な返事だ。
(2位じゃダメなんだ……。敦に勝てなかったら、敦は学校に来ない……)
練習に付き合ってもらったクロードや卿子にも申し訳なく思う。
「票の中には、『ラノさん』と書いたものが10枚くらい混じってたんですが、どう思われます」
章が知己にマイクを向けた。
「『ラノさん』? 何? それ?」
暗く沈む知己は、未だに『ラノさん』をよく理解できていない。
「俊ちゃんがアピールタイムの途中で、『ラノさーん!』って叫んだでしょ? あれで先生の女装の時の源氏名は『ひラノさん』だと解釈しちゃった人が何人も居たみたいで……」
(なんで、章は『源氏名』なんて言葉を知ってんだ?!)
「その人たちが『ラノさん』で投票したみたいです。一応、それもカウントしてます」
(ん? と、いうことは。俊也が会いたがっていたのは……?)
恐ろしい考えに行きついて、知己は青ざめた。
「いーんじゃねえ?」
両腕を組んで、敦が不敵に笑いながら言った。
「ラノさんでも平野先生でも何でもいい。全部ひっくるめて有効票にしたらいい。俺は全っっっっっ然かまわねえ」
2位の発表後なので、すっかり勝利を確信している。
むしろ「ここまで譲歩してやっている。すげえ。俺、寛容」みたいな不遜な態度まで醸し出している。
「はいはい。敦ちゃんが超ムカつくので、先を進めますよー!」
章が作り笑いで司会を進めると
「章。今、本音がポロリ」
さすがに知己が突っ込んだ。
「いいんですよ、これは『ドキッ! 男だらけの女装ミスコン』なんだから。僕の本音のポロリくらい有っても」
(絶対にこいつ、昭和生まれだろ?)
章の年齢詐称疑惑が知己の中に芽生えた。
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