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「そして栄えある1位はぁ……」
章がなんとなく投げやりな態度に見えるのは気のせいだろうか。
当然のようにスポットライトは敦を映した。
「2411票獲得。2年3組、梅木敦君です」
章は淡泊に、しかもものすごく簡潔に紹介した。
が、体育館の中は
わぁぁぁぁ――――っ!
と知己の時とは比べ物にならない大歓声が沸き起こった。
(ここの、ほとんどがサクラ……?)
投票し終え既に帰った者も居るだろうが、全校生徒298名の保護者や関係者でこの投票数はありえない。
「一体、どんだけサクラ用意したの? 敦ちゃん」
呆れて章が訊くと
「ふふん。ちょっと『暇な奴は文化祭に来い』と梅ノ木グループPC回覧板に書き込んだだけだ」
やまない声援に手を振って応えながら、敦が勝ち誇って言った。
「梅ノ木グループでそれを敦ちゃんがやったら、壮絶な人数が来るに決まっているでしょ?」
「部外者への呼びかけ禁止って、『参加要項』に書いてなかったし。『要項』に書いてない方が悪いよなぁ?」
そう言われると、言い返せない。
「あー、本当にムカつくなぁ。来年は、その辺も書くことにするよ」
どこまでも来年もやるつもりの章は、ため息を吐いて敦から一旦引いた。
「そうそう。『要項』が全て……だよな」
そう言って章をやりこめた敦は満足そうに微笑むと、次に知己へ照準を合わせた。
「じゃあ、屁理屈教師。覚悟はいいか」
(これだけのサクラ用意しといて言うセリフじゃないよな)
知己は思わず苦笑いを浮かべた。
「俺の言う事を一つ、聞いてもらうぞ!」
左手を腰に当て、右手の指をピストルみたいにして、体をきゅるんっと90度回転。栗色の柔らかな髪がふわりと揺れる。敦のそのポーズだけで、「カワイイ」「カワイイ」の連呼が会場に湧いた。
「え……」
突然の知己のピンチを感じ取った美羽が、慌てて不安な視線をステージ下の門脇に向けた。
「どうしよ。門脇君……」
門脇は美羽の視線に応えるように頷き
「大丈夫だ。ふざけた要求なら、ぶん殴るだけだ」
美羽を安心させるように呟いた。
「ねえ、門脇。どこらへんが『大丈夫』なの? 大学生のお前が高校の文化祭でそこの高校生をぶん殴ったら、さすがにやばいって分かるよね?」
止める菊池の横で
「やっちゃえ、門脇君! 私が許します」
車のCMのように近藤大奈も後押しする。
「近藤ちゃん。お願いだから、門脇をけしかけちゃらめぇ」
菊池一人が泣きそうになっていた。
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