文化祭バトル勃発 8

4/10
前へ
/778ページ
次へ
「そして栄えある1位はぁ……」  章がなんとなく投げやりな態度に見えるのは気のせいだろうか。    当然のようにスポットライトは敦を映した。 「2411票獲得。2年3組、梅木敦君です」  章は淡泊に、しかもものすごく簡潔に紹介した。  が、体育館の中は  わぁぁぁぁ――――っ!  と知己の時とは比べ物にならない大歓声が沸き起こった。 (ここ(体育館)の、ほとんどがサクラ……?)  投票し終え既に帰った者も居るだろうが、全校生徒298名の保護者や関係者でこの投票数はありえない。 「一体、どんだけサクラ用意したの? 敦ちゃん」  呆れて章が訊くと 「ふふん。ちょっと『暇な奴は文化祭に来い』と梅ノ木グループPC回覧板に書き込んだだけだ」  やまない声援に手を振って応えながら、敦が勝ち誇って言った。 「梅ノ木グループでそれを敦ちゃんがやったら、壮絶な人数が来るに決まっているでしょ?」 「部外者への呼びかけ禁止って、『参加要項』に書いてなかったし。『要項』に書いてない方が悪いよなぁ?」  そう言われると、言い返せない。 「あー、本当にムカつくなぁ。来年は、その辺も書くことにするよ」  どこまでも来年もやるつもりの章は、ため息を吐いて敦から一旦引いた。 「そうそう。『要項』が全て……だよな」  そう言って章をやりこめた敦は満足そうに微笑むと、次に知己へ照準を合わせた。 「じゃあ、屁理屈教師。覚悟はいいか」 (これだけのサクラ用意しといて言うセリフじゃないよな)  知己は思わず苦笑いを浮かべた。 「俺の言う事を一つ、聞いてもらうぞ!」  左手を腰に当て、右手の指をピストルみたいにして、体をきゅるんっと90度回転。栗色の柔らかな髪がふわりと揺れる。敦のそのポーズだけで、「カワイイ」「カワイイ」の連呼が会場に湧いた。 「え……」  突然の知己のピンチを感じ取った美羽が、慌てて不安な視線をステージ下の門脇に向けた。 「どうしよ。門脇君……」  門脇は美羽の視線に応えるように頷き 「大丈夫だ。ふざけた要求なら、ぶん殴るだけだ」  美羽を安心させるように呟いた。 「ねえ、門脇。どこらへんが『大丈夫』なの? 大学生のお前が高校の文化祭でそこの高校生をぶん殴ったら、さすがにやばいって分かるよね?」  止める菊池の横で 「やっちゃえ、門脇君! 私が許します」  車のCMのように近藤大奈も後押しする。 「近藤ちゃん。お願いだから、門脇をけしかけちゃらめぇ」  菊池一人が泣きそうになっていた。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加