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「俺の要求は、ただ一つ……」
ノリのいい効果音係が、そこでドラムロールを再び流した。
ダラララララララ…………、ダン!
「俺様に逆らわず、これからずーっと俺のいう事を聞くこと」
美少女にとても似合わぬ笑顔で敦が言った。
「はあ?」
美羽が驚き
「小学生か?」
大奈が突っ込んだ。
「よし。ぶん殴ってくる」
門脇が腕まくりをしたので
「門脇、やめてぇー!」
菊池は門脇を羽交い絞めのようにして取り押さえた。
ステージ下では何やら門脇と菊池がバタバタ暴れているようだが、
(敦の要求する事って……どんなことだろ?)
知己は少し考えてみた。
(どうせ自主週休3日制を認めろとか、休んでも理由を聞くなとかとやかく言うな……みたいなもんだろ?)
まあ、めちゃくちゃなお願いをするとは思えないが。
(あ、でも「教師は理科室来るな」だと困るな……)
特別教室棟に生徒だけで入りびたらせるのは、さすがにまずい。
知己が(まずい。どうしたものか)と一人悶々と考えていると
「はいはーい。敦ちゃんが馬鹿な要求を口にしたところで、誰も気にしなかった今回のミスコンの特別ルールをご紹介しまーす!」
突然、章がマイク片手に喋り出した。
特別ルール?
そんなのあったっけ?
誰もが初耳のような顔をしている。
今の今までそんなものが存在したとは、章以外誰も知らないのだ。
「なんだ。その後出しじゃんけんみたいなのは」
敦が、モロ「ふざけんなよ。そんなの通用するか」的な態度で言うと
「後出しでも何でもないよ」
平然と章が参加要項の用紙を取り出した。
「ほら、ここ」
と、指さす。
「ここに1pt文字サイズで、ちゃーんと書いてあるよ」
章は暗黒微笑を浮かべていた。
「1pt?!」
敦はすかさず携帯を取り出し、カメラを起動。そこでめいっぱい拡大して読んだ。
「確かに……書いてある」
1ptなんて、ほぼ点線と同じだ。10.5ptの文章の中に書かれていては、重要な文章の下線だと思って、誰も気にも留めていなかった。
「『要項がすべて』……だったよね?
保険の証書も取説もそう。小さい文字ほどよく読んでおけって大人が言ってたよ。知らないの? 敦ちゃん」
したり顔で章が言えば
「狡いぞ、章!」
と敦は罵った。
「言っとくけど、敦ちゃんにだけは言われたくないからね」
誰もが
(ダヨネー!)
と章に賛同した。
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