文化祭バトル勃発 8

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「有ったぞー!」  投票係の声。  ラッキー投票用紙が見つかったのだ。 「誰の名前が書いてある?!」  敦と章が詰め寄った。  ラッキー投票用紙に独特な字で書き殴られた名前は 『ラノさん』  だった。  その文字に、知己も章も敦も見覚えがあった。  ―――俊也だ。  テストの度に、解読に時間を取らせるこのへんちくりんな文字は俊也だ。  今時、小学生でも書かないようなクソ下手な文字は俊ちゃんだ。  俊也以外ありえない―――。  角がある無効票だから、入れても関係ない……と知りつつ、未練がましく恋の思い出に投票したのだろう。 「無効だろ、こんなの!」  敦が喚いたが 「違うね。さっき『ラノさん票も入れていい』って言ったの、敦ちゃんだよ」  章に言われて、敦は「うぐっ」と言葉に詰まった。 「大体、2千人ものサクラ連れてきておいてよく言うよ」 「なんだよ、それじゃ俺が負けたみたいだろ?」 「多分、負けてたと思うよ」 「そんなの分かんないじゃないか」 「だったら、サクラなんか使わずに最初からちゃんと勝負してよね」 「うぬー! 章だって『ラッキー投票用紙』なんか仕込んでたクセに」  売り言葉に買い言葉。  敦が言い返すと 「敦ちゃんが正々堂々勝負してたら、この要項文のことは言わないつもり。下線扱いにするつもりだったよ」  章が軽くあしらっていた。 「ぐぬぬぬぬー!」  今度こそ本当に黙った敦を尻目に、章は改めてマイクのスイッチを入れた。 「……と、いうことで今年のミスコン優勝はラノさんこと平野先生に決まりましたー! まーた来年ー!」  手を振って、章はにこやかにかつ強引にミスコンを終わらせた。  ゆっくりと緞帳が降りてくる。  観客は緞帳が全て降りる前に、「やれやれ」「しょうがねーなー」「これだから敦様は」と言いながら、体育館からゾロゾロと出て行った。  こうして、見事に盛り下がった文化祭は終わった。 8db6edc7-1aeb-4609-9fe7-2e2b321dfd2d           ―文化祭バトル勃発・了―
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