アツッシーの反逆

1/1
前へ
/778ページ
次へ

アツッシーの反逆

 翌週は文化祭代休を挟んだので、火曜日スタートである。   卿子が笑顔と共に朝のお茶を運んできてくれた。 「平野先生、おはようございます。土曜日はお疲れさまでしたー」 「あ、卿……じゃなかった、坪根先生。おはようございます。ご協力ありがとうございました」  他の職員には既に配り終え、知己たちの2年生教員の机の島で最後のようだ。盆には、もう何も乗っていない。 「色々ありましたが、なんだかんだで優勝できて良かったですね」  知己の机の上には、自分の担任する2年3組からもらった怪しいミスコン優勝トロフィーが輝いている。 「おかげさまで。これで敦も学校に来るようになると思います」  微妙な笑顔で知己が答えている所に、クロードもやってきた。 「そのアツッシー君ですが……」 (あツッシー君? 変な呼び方だな)  訝し気に思ったが、クロードにもまずは礼だ。 「クロードもアリガトな」  衣装提供やダンス指導、その他もろもろ卿子とクロードには盛大にお世話になった。あのアピールタイムは到底一人ではできなかった。元々人見知りの理科室に籠りがちな男。一人だったら、絶対にやらないしやれない。この二人あってこそだ。 (と、いうか……他のやつら、レベル高いよなー……)  楽しいネタの数々に、何やら自分は「お呼びじゃない」感満載だった。 (……いまだに何故優勝できたか、よく分からない)  ミスコンという主旨を完璧に知己は見失っている。 「アツッシー君、変な噂流していましたよ」 「変な噂?」 「知己が文化祭で、脱いで人肌見せたって」 「はあ?!」  あまりのことに、知己は驚きと怒りを足して二倍にした声を張り上げた。  卿子に至っては、頬を赤く染め、言葉を失っている。 「脱いだんですか?」  クロードが面白そうに確認してくるのが、なおさら不愉快だ。 「脱いでなんかねーよ!」  即答した知己の頭の中に (ん? もしかして……?)  少し心に引っかかる敦との話があったのを思い出した。  確かに敦は言っていた。  ―――『文化祭は学校行事だろ? 学校の為に教師も一肌脱げ』 (もしかして、あいつ……また適当に言い換えて、俺の変な噂を流しやがって……)  今日はマスカラもつけ睫毛も何も付けていない、それでも十分魅惑的な切れ長の目を知己はそっと伏せるのだった。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加