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アツッシーの反逆
翌週は文化祭代休を挟んだので、火曜日スタートである。
卿子が笑顔と共に朝のお茶を運んできてくれた。
「平野先生、おはようございます。土曜日はお疲れさまでしたー」
「あ、卿……じゃなかった、坪根先生。おはようございます。ご協力ありがとうございました」
他の職員には既に配り終え、知己たちの2年生教員の机の島で最後のようだ。盆には、もう何も乗っていない。
「色々ありましたが、なんだかんだで優勝できて良かったですね」
知己の机の上には、自分の担任する2年3組からもらった怪しいミスコン優勝トロフィーが輝いている。
「おかげさまで。これで敦も学校に来るようになると思います」
微妙な笑顔で知己が答えている所に、クロードもやってきた。
「そのアツッシー君ですが……」
(あツッシー君? 変な呼び方だな)
訝し気に思ったが、クロードにもまずは礼だ。
「クロードもアリガトな」
衣装提供やダンス指導、その他もろもろ卿子とクロードには盛大にお世話になった。あのアピールタイムは到底一人ではできなかった。元々人見知りの理科室に籠りがちな男。一人だったら、絶対にやらないしやれない。この二人あってこそだ。
(と、いうか……他のやつら、レベル高いよなー……)
楽しいネタの数々に、何やら自分は「お呼びじゃない」感満載だった。
(……いまだに何故優勝できたか、よく分からない)
ミスコンという主旨を完璧に知己は見失っている。
「アツッシー君、変な噂流していましたよ」
「変な噂?」
「知己が文化祭で、脱いで人肌見せたって」
「はあ?!」
あまりのことに、知己は驚きと怒りを足して二倍にした声を張り上げた。
卿子に至っては、頬を赤く染め、言葉を失っている。
「脱いだんですか?」
クロードが面白そうに確認してくるのが、なおさら不愉快だ。
「脱いでなんかねーよ!」
即答した知己の頭の中に
(ん? もしかして……?)
少し心に引っかかる敦との話があったのを思い出した。
確かに敦は言っていた。
―――『文化祭は学校行事だろ? 学校の為に教師も一肌脱げ』
(もしかして、あいつ……また適当に言い換えて、俺の変な噂を流しやがって……)
今日はマスカラもつけ睫毛も何も付けていない、それでも十分魅惑的な切れ長の目を知己はそっと伏せるのだった。
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