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文化祭の余波 1
(人の噂も七十五日というが、とても二ヶ月と15日も耐えられない)
なんとも嫌な噂を立てた張本人の敦と章は、今日も理科室に入りびたる。
「そういや、俊也は?」
いつものように章と敦は理科室をたまり場にして、楽しそうにおしゃべりに興じている。
だけど俊也だけは居ない。遅れてくるかと思っていたが、いつまで経っても来る気配がなかった。
「俊ちゃん? そういや来てないね」
淡泊な章に
「試験勉強でもしているんじゃないか?」
文化祭が終われば、期末考査の日まで数えるほどしかない。
「俊ちゃんが?」
章が半笑いで言うと
「……それはないか」
敦も否定した。
「じゃあ、あれだ」
章が心当たりを口にする。
「先生に会いたくない、とか」
知己もあまり考えたくはなかったが、それしか思いつかなかった。
文化祭のあの日、片付けの時にやっと姿を現した。だけど、帰りのHRではあからさまに目を背けて、担任の知己の顔をまともに見ようとしなかった。
今日だって、一切目を合わせず、口もきいていない。
「俊也、傷心のあまりひねくれたか?」
敦が言うと
「それじゃ、前はひねくれてなかったみたいじゃない」
章が気持ちよく否定すると、敦も
「それもそうか」
と、ごく普通に同調した。
(本当に、こいつらの友情は分からん……)
とは言え、知己だって仕事は押している。
期末考査の問題作成をしないといけない。文化祭にかまけていた分、他の教師よりもだいぶ遅れをとっていた。
もちろん章達、生徒の居る前でそれはできない。
知己は、ぶうぶう文句言う章と敦を「試験前だから、早く帰って勉強しろ」と追い立てるように帰した。そして、自分もその日は理科室に長居せずに家に持ち帰って仕事をすることにした。
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