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(あの不思議な踊りで校長への直訴をやめてくれたのなら、それだけでも踊った甲斐があったな)
知己は朦朧とした頭で考えた。
元が人見知りの理科室引きこもり教師。やりたくない気持ちはハンパなかった。「打倒、敦の自主的週休三日制」と掲げ、自分を無理やり納得させながらの不思議な踊りは、主に知己のMPを大きく削った。
将之の部下がPTAのオバチャンよろしく校長室に突撃したら、きっとミスコンはお取り潰しにあっただろう。
ミスコンは、2年3組の出し物だ。
一応、知己にも担任としての自覚はあった。敦達からは全く認められていない「担任」のポジションだったが。
(ぶっちゃけ、あいつら。俺の話よりも敦の言う事をきくもんな。章もあんな感じで、俺の話聞いてるふりして聞かずに自分のしたい通りにやるし、俊也に至っては俺の話自体をそもそも聞いてないし……。あれ? 俺って……何?)
なんだか少し悲しくなってきた。と、同時に
(そういや俊也……、気になるなぁ)
さすがにあれだけ避けられれば、鈍い知己でも気付く。
(俺……の所為だよな)
一人考え込む知己をよそに、将之は将之で喋りまくっていた。
「それで『君が感動したという動画はないの?』って訊いたら、『ありません。ミスコン中の映像は撮影許可得ているものだけだったんです。それに私にしたらこの写真だけでも、いっぱいいっぱい』だったとか」
体育館を出て見ると、何やら写真撮影会みたいなのが行われている。
生徒達で盛り上がっている中自分もお願いするのは図々しいかなと思いつつも、どうしても写真が欲しくて、列に並んでしまったそうだ。
彼女は、その写真を職場のPCの壁紙に設定した。その隣の机には後藤が座っている。その時に
「あれ? これ、もしかしたら平野先生じゃ?」
と呟いたことにより、写真の存在が発覚した。
後藤が「これ、欲しいー、欲しいー!」とねだったが、
「何故、私があなたに大切な思い出をあげねばならんのです?」
と一蹴。
将之も同じように頼んだが、もちろん最初は断られた。それで将之は「知り合いだと思う。確認したいから、写真を送って」と頼んで、やっと送ってもらえた次第だ。
「いいなー。僕も見たいなー。先輩の気高いシスターの姿」
将之が箸を止めて、意味深な視線を投げかけた。
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